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SNSで見るトンガ火山噴火と日本の津波警報/注意報発出

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南太平洋の島国トンガ付近の海底火山「フンガトンガ・フンガハアパイ火山」で1月15日、非常に大規模な噴火が発生しました。噴火の規模を表す火山爆発指数(VEI)で上から3番目のVEI6クラスとみられており、ここ1万年での発生数で39件、直近で言うと1991年にフィリピンのルソン島西側にあるピナトゥボ山で発生した噴火に匹敵する「colossal=並外れて巨大」な噴火だと考えられます。当初、気象庁は「日本では多少の潮位の変化があるかもしれないものの被害の心配はない」との発表をしていましたが、夜半になって津波警報・津波注意報が発出されました。津波警報が発出されるのは2016年11月の福島県沖の事例以来となります。

これに伴い、全国で深夜の寒い中、多くの方が避難行動を起こされました。漁船が沈むなど物的被害はあったものの、幸い人的被害は無く(避難行動中に怪我をされた方がいるという情報はあります)、警報・注意報は1月16日14時に解除されるに至りました。当初「被害の心配はない」と発表したものの、急に津波警報・注意報を発出した気象庁を非難する声もSNS上で散見されますが、今回の津波は通常の地震や火山噴火によって発生するものとは性質が異なり、まだ詳細な原因が不明なため、気象庁にとってもまさに「想定外」の事象であったのかと思われます。そんな中、人命を守ることを最優先に、事象の原因はわからないながらも、フレキシブルな判断のもと通常の津波警報・注意報の仕組みを使って直ちに避難を促した点はむしろ評価に値するのではないでしょうか。

気象庁は15日20時頃に始まった潮位変化をすでに認識していましたが、トンガ諸島の噴火に伴う津波の伝搬から想定される到達予想時刻より早い時間で観測されていたため、その時点では津波警報は発表しなかった、としています。噴火の衝撃波による気圧変化によって、海面に吸い上げ効果が作用した可能性もあると考えられます。ともかく、これまでに観測できていない自然現象であり、今回取得できた大量のデータをもとにメカニズムが解明され、将来の防災に活用できることを望みます。

一方、災害に関する情報の伝達について、いくつか特筆すべきところがあります。まず、噴火が発生してすぐにSNSには人工衛星からとらえた画像が多く投稿されました。これまで人工衛星というのは国家や一部研究機関のみがアクセスできるものでしたが、民間の参入も進み、その情報へのアクセスが非常に簡易になってきていると言えます。この「人工衛星の民主化」が進むことで、今後も防災や災害報道の局面でより活用が進むのではないでしょうか。また、公的機関からSNSを通じた情報伝達もますます活発です。気象庁の緊急記者会見もYoutubeを通じてなされました。以前は災害時にも強い媒体として電池式のラジオが挙げられましたが、今はむしろスマートフォンと予備バッテリーの方が威力を発揮するかもしれません。一方、今回の避難指示や警報・注意報が、どのような媒体を通じ、どれだけ必要な人に伝わったのか、または伝わらなかったのか、そして実際の避難行動に結びつけることができたのか、については地方自治体を中心に検証することで、将来的なレジリエンスに結び付けていく必要があると思われます。

ここからは、SNSに投稿された情報をもとに、時系列に沿って事の推移を追ってみたいと思います。時間は全て日本時間に統一しています。

1月15日13時すぎ トンガ付近の海底火山で大規模な噴火が発生

これはトンガから約800km離れたフィジーで撮影されたものですが、それだけ離れていても強烈な衝撃波が届いていることがわかります。


1月15日14時ごろ トンガの海岸に津波が到達する様子

トンガ諸島のハンガ島在住の方が、津波が海岸に到達する様子を投稿されました。


1月15日14時52分 人工衛星から噴火の様子が投稿される

米国の気象観測を行っている組織が、人工衛星からとらえた噴火の画像を投稿しました。噴煙が広がる様子が高精細にとらえられています。


1月15日16時00分 気象衛星ひまわりから見た噴火の様子

NICT(情報通信研究機構)が提供する「ひまわりリアルタイムWeb」でも噴火の様子が確認できます。非常に大規模な噴火であることがわかります。


1月15日19時すぎ 気象庁が日本への影響は軽微と発表

この時点の発表では、日本では多少の潮位の変化があるかもしれないものの被害の心配はなく、潮位の変化は北海道から鹿児島県にかけての太平洋側と沖縄・奄美の広い範囲が中心でいずれも20センチ未満と予想され、早いところで午後9時ごろから1日程度続く可能性がある、とされました。


1月15日20時~21時 一時的な気圧変化を観測

トンガの火山噴火の衝撃波を原因とする可能性がある、一時的な気圧変化が日本全国で観測されました。ウェザーニューズ社作成のアニメーションでその様子がよくわかります。


1月16日00時15分 全国に警報・注意報が発令

気象庁から津波警報・津波注意報が発出されました。特に鹿児島県の奄美群島とトカラ列島では津波の高さは3メートルと予測され、各メディアが沿岸部の人々に避難を呼びかけました。避難指示はこの後各地で発出と解除が行われましたが、最大時で8県・55市町村、約23万人に対して避難指示が出ていたと思われます。


1月16日00時41分 沖縄で避難される方々の様子

深夜の警報発出ではありましたが、多くの方が避難行動をとられたようです。


1月16日01時19分 避難する方々で渋滞も発生

警報が出された鹿児島県・奄美では、避難する方々の車両で渋滞も発生しました。


1月16日01時32分 沖縄県でコンビニエンスストアに避難される方々の様子

避難は、決して公設の「避難所」に逃げなければいけないものではなく、その場の状況から判断して、自分や家族の身を守れる場所に行くことも立派な避難です。その点、食料品やトイレのあるコンビニエンスストアは、有事には有効な避難場所になるかもしれません。


1月16日02時00分 気象庁による緊急記者会見

当初1時40分であった会見が2時にリスケジュールされて開催されました。

  • トンガ諸島で発生した大規模な噴火によって周辺で津波が発生
  • 状況を見ながら、15日19時03分に日本の太平洋沿岸に若干の海面変動の可能性がある旨の津波予報を発表した。
  • その後、各地で潮位変化が観測されたことに伴って、16日0時15分に奄美群島・トカラ列島に津波警報、北海道から沖縄の太平洋沿岸を中心に津波注意報を発表した。
  • 15日20時頃に始まった潮位変化はトンガ諸島の噴火に伴う津波の伝搬から想定される到達予想時刻より早い時間で観測されており、その時点では津波警報は発表しなかった。
  • 今回の潮位変化は地震に伴い発生する通常の津波とは異なると考えており、現時点でこれが本当に津波かどうかわかっていない。ただし、大きな潮位の変化が観測されているため、防災上の観点から津波警報、注意報の仕組みを使って防災対応を呼びかけている。
※Youtubeの埋め込みができないため、リンクを張ります。
https://youtu.be/4-uM5ksQh-A


1月16日01時14分 内閣府防災がツイートでデマへの注意を喚起

2016年に発生した熊本地震の際に「動物園からライオンが逃げ出した」というデマが広く流布してしまったのが顕著な例ですが、災害時には不安な心理状態からデマが真偽確認されずに広まることがあります。内閣府防災が日本語と英語のツイートで注意を喚起しました。


1月16日02時30分ごろ 

気象庁の「潮位観測情報」ホームページで公開されている情報によると、岩手県久慈の観測地点では、02時30分ごろに一時高潮警報基準を超えていたもようです。


1月16日03時23分 米国カリフォルニア州に津波が到達

米国西海岸に位置するカリフォルニア州のサンタクルーズ港に津波が到達している様子を見ることができます。また、カリフォルニア州の北となりオレゴン州にも到達している動画が投稿されています。


1月16日05時ごろ 沿岸部の鉄道に運休相次ぐ

千葉県では内房線と外房線の一部、岩手県では八戸線の全線や東北本線、山田線、釜石線の一部などで運転見合わせとなりました。


1月16日05時ごろ 大阪・道頓堀川で川の流れが逆流

大阪の都市部を流れる道頓堀川で川の流れが逆流していることが見られました。これは津波が到達し、川を遡上していることが原因と推測されます。


1月16日07時30分ごろ 奄美・トカラの津波警報が注意報に

この時点で鹿児島県の奄美群島とトカラ列島に出ていた津波警報が津波注意報に切り替わりました。


1月16日08時ごろ 高知県で複数の漁船が沈没

おそらく今回の津波を原因として、高知県の佐喜浜漁港で複数の漁船が沈没してしまいました。他にも徳島県や三重県でも同様の被害が発生したもようです。


1月16日08時ごろ ペルーで津波の被害が発生

日本から太平洋を挟んで反対側、ペルーのパラカスのビーチに津波が到達している様子がわかります。この他、隣国のチリにも津波が到達している投稿が多数上がっています。


1月16日09時08分 ソロモン諸島では特に被害なしとの情報

トンガと同じく南太平洋に浮かぶ島国であるソロモン諸島の公式アカウントによるツイート。通常の火山の噴火による津波であれば、より距離的に近いところでより大きな津波や被害が発生するのが普通ですので、今回日本で発生した事象がこれまで想定してきたものとは異なることがうかがえます。


1月16日09時15分 岩手県の一部会場で大学入学共通テスト中止に

この日は運悪く大学受験の共通テスト2日目にあたり、一部の会場で試験が中止となりました。後日改めて試験が行われるとのことです。


1月16日11時20分 岩手県の津波警報が注意報に

この時点で岩手県にに出ていた津波警報が津波注意報に切り替わりました。


1月16日12時53分 神奈川県横浜市の川が逆流

津波の遡上現象と思われます。スペクティでは同様の現象を非常に多く覚知しており、ひとつひとつ挙げられませんが、宮城県の多賀城市・東松島市、神奈川県の横浜市・逗子市、青森県の八戸市、沖縄県の名護市・与那原町、東京都・小笠原諸島の父島、静岡県の賀茂郡、鹿児島県の種子島などでも同様の事象が観察されました。


1月16日14時00分 津波注意報がすべて解除

気象庁から発表があり、全国に発出されていた津波警報がすべて解除されました。


1月16日19時55分 駐日トンガ王国大使館からのツイート

トンガでは通信や電力などのライフラインが途絶するなどの被害が出ているようですが、いまだ被害の規模は見えていません。トンガ王国からの報告を待ちたいと思います。


(根来 諭)
January 16, 2021




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