可視化技術「ミュオグラフィ」による火山観測

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日本列島はプレートの境界に位置することから火山を多く擁しています。火山が噴火すると、噴石・火砕流・溶岩流・火山ガス等によって人命が奪われる可能性があり(2014年の御嶽山噴火では登山者ら58名が死亡)、また大量の火山灰は交通網を含むインフラを麻痺させて経済に大ダメージを与える危険があります。日本には活火山とされる火山が実に111も存在し、そのうち50の火山が「常時観測火山」と位置付けられ、噴火の前兆を捉えるべく地震計・傾斜計・空振計・衛星測位システム・監視カメラ等を用いてその活動は24時間体制で常時観測・監視されています。

(出典:気象庁HP)

火山噴火を予知するのが難しいのは、火山活動のパターンが多様で、地下でのマグマの動きや圧力の変化などを正確に観測することができないためです。さらに、噴火の前兆として現れる地震やガスの放出、地面の隆起などの兆候が必ずしも噴火に繋がるわけではなく、予測の精度を高めるためには膨大なデータと高度な技術が必要です。地質的・化学的なプロセスが非常に複雑であり、監視技術に限界があることや過去のデータが限られていることから、予知には多くの不確実性が伴うのが現状です。中でも、マグマ(地球の内部で高温・高圧の条件下で溶けた岩石)は重要な要素であり、地下にどんなマグマだまりがあり、どのように変化したり、移動したりしているのかが掴めればある程度噴火の危険性をある程度予知することはできるのですが、従来の技術でもって正確に観測することは困難でした。

ミュオグラフィというブレークスルー

近年、ミュオグラフィと呼ばれる技術が発達を見せています。ミュオグラフィとは、ミューオン(μ粒子)を使って物体の内部構造を非破壊で可視化する技術を言います。ミューオンは、宇宙線が地球の大気中で衝突することによって生成される高エネルギーの粒子で、地球上では常に宇宙から降り注いでおり、物質を通過する能力が高いのですが、物質(特に密度の高いもの)を通過する際に一部エネルギーを失います。このため、ミュー粒子が物体を通過した後、そのエネルギーの減少を測定することで、物体の内部にどのような構造があるかを推測することができます。我々が医療目的でX線レントゲン撮影で人体の内部を可視化するように(X線の一部が物体内部に止まる性質を利用)、巨大な物体の内部構造を可視化することができるのです。火山の内部構造を知るためだけではなく、古代遺跡の内部を非破壊的に調査することや、原子力施設のように中に人が入ることに危険がともなう施設、橋梁やダムといった巨大構築物の検査などにも活用されるものです。

下図は、ミュオグラフィを使って作成された、静岡県伊東市に位置する活火山「大室山(おおむろやま)」の内部構造です。白い丸は検出器が設置された場所を示し、山の内部の色が濃い部分が密度の高い溶岩がある場所を表しています。このように、今までは難しかった火山の内部構造を立体的に把握することが可能になっています。

(出典:岩波書店『富士山噴火に備える』「世界初の多方向 3 次元透視が明らかにした大室山の内部構造」)

可視化技術の未来

ミュオグラフィにAI(人工知能)技術を掛け合わせることで火山噴火に関する予測能力の強化が期待できます。AI、特に機械学習を用いることで、過去の火山活動のデータから噴火がいつ発生するかを予測するモデルを作成することができ、予測精度を向上させることができます。また、ミュオグラフィから得られる膨大なデータを迅速かつ高精度で解析することによって、通常とは異なる火山活動を検知することができるため、避難指示などの早期警戒につなげることも可能です。

さらに、ミューオンのような素粒子を観測することによって、火山だけではなく地球の内部構造全体を把握するような取り組みも行われています。小柴昌俊博士がノーベル物理学賞を受賞したことや、その観測装置である「スーパーカミオカンデ」で広く知られることになったニュートリノも、ミューオンと同じく宇宙から降り注ぐ素粒子です。ニュートリノはミューオンと比べると透過性がはるかに高く、地球を通り抜けることができるのですが、地球を通ったニュートリノを観測することでその内部構造を捉えることができるのです。原理的にはそう言えるのですが、観測の難易度が非常に高い(そのため小柴博士はノーベル賞を受賞した)ことと、検出器も桁違いに大規模なものを用意することが必要となるため、実用化はまだまだ見えていないのが現状です。しかし、地殻やマントルといった地球内部の構造を可視化することによって、例えば地震の予測なども可能になるかもしれません。日本の研究はこの分野で最先端を行っており、今後の発展と防災分野への応用が期待されます。

(根来 諭)
December 25, 2024


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