中東情勢を見る上で知っておきたい「イスラム教シーア派」
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9月17日と18日、レバノンの「ヒズボラ」の構成員が使用していた通信機器が相次いで爆発して多数の死傷者が発生し、国際社会に衝撃を与えました。イスラエルの諜報機関であるモサドによる工作との見方が大勢ですが、イスラエル政府は声明を出していません。これにより、中東での紛争が激化する懸念が持ち上がっています。
レバノンでまた通信機器爆発、20人死亡 日本製トランシーバーか(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/security/TZLU67JKGZKVBA33JSMNXATSDY-2024-09-18/
このヒズボラは報道などで「イスラム教シーア派組織」と言われていますが、この「シーア派」というのは何なのか、本稿では解説したいと思います。
シーア派とは
仏教にも宗派があるように、イスラム教にも複数の宗派があり、解釈の違いや細かい分派などもあり特定は難しいですが、世界のムスリム(イスラム教徒)の約8割がスンニ派、約1割がシーア派と言われています。スンニ派が圧倒的な多数派と言えるでしょう。下の図は各国の宗派別人口の割合を示した図で、シーア派が多数を占める国は一部に固まっており、盟主を自任するイランをはじめとしてイラク、アゼルバイジャン、また小さくて地図では見えませんがバーレーンがシーア派が多い国となります(黒っぽく見えているオマーンは「イバード派」が多数)。
イスラム教の教団は、創始者ムハンマドの時代から数えて第4代のカリフ(最高指導者)であるアリーの死後に、スンニ派とシーア派に分裂しました。シーア派は、預言者であるムハンマドの従兄弟であったアリーとその子孫だけがムハンマドの後継者であり、信者共同体の指導者であると認めて忠誠を誓う人々のことで、「シーア・アリー(アリーの党派)」という言葉からシーア派と呼ばれるようになったと言われています。一方でスンニ派の「スンニ」とは、ムスリムの規範となるムハンマドの言行を意味し、ムハンマドが神の啓示をどのように解釈し、実践したかを正しく理解する人々がカリフを継いでいくべきだと考える派閥です。シーア派は血統を重視し、スンニ派は実際の言行を重視すると言う意味で、キリスト教において伝統とローマ教皇の権威を重視するカトリックと、形式にこだわらず聖書を重んじるプロテスタントになぞらえている人がいたのを憶えています。
その他にも礼拝の回数などにも違いがあります。
シーア派の盟主イラン
レバノンはもともと様々な宗教・宗派が入り乱れる「モザイク国家」と呼ばれてきましたが、ヒズボラは1980年代初頭に中東最大のシーア派勢力であるイランによって創立されました。1992年以降は選挙にも参加し、議席を確保して政治的にも大きな影響力を持つ組織ですが、「世界で最も重武装した非国家勢力のひとつ」とも称され、数万人の戦闘員を擁し、その資金や装備はイランが提供していると見られます。
それではなぜイランはイスラエルをそれほどまでに敵視しているのでしょうか。大きな転換点は1979年にイランで発生したイスラム革命です。それまで世俗的な国家であったイランはこの時から宗教を厳格に解釈して適用するイスラム原理主義的な国家体制に生まれ変わったのです。この新たな体制は、イスラム教の聖地を擁するエルサレムを奪ったとしてイスラエルを「イスラムの敵」と位置づけ、イスラエルと対立することをある意味で国家的なアイデンティティとしているのです。
そのイランはヒズボラだけではなく、各国の武装勢力を支援することでイスラエルと対立しています。それら組織は「抵抗の枢軸」と呼ばれ、今般のイスラエル・パレスチナでの紛争の端緒となった昨年10月のイスラエル音楽フェス会場への攻撃を実行したパレスチナの「ハマス」、貨物船の乗っ取りやイスラエルへのミサイル・ドローン攻撃を行っているイエメンの「フーシ派」、そしてレバノンの「ヒズボラ」やイラクやシリアの民兵組織が含まれています。
イスラエルは現在、ハマス、ヒズボラ、フーシ派の3つの組織と向き合っていますが、大きな図で言えばイランを盟主とするシーア派勢力「抵抗の枢軸」と戦っているのです。今回の通信機爆破の攻撃によってヒズボラは復讐を宣言。イスラエルとの間の戦闘がすでに激化の様相を見せていますが、その先にはイスラエルとイランの全面的な戦闘という最悪のシナリオも考えられなくもありません。
イスラム教シーア派の教義自体に何か紛争を誘発するような要素があるわけではありませんが、政治的な意図や歴史的な経緯がからまることによって、現在「イスラエルvsイスラム教シーア派」の構図ができあがってしまっていると言えます。この構図を念頭に中東情勢の動向を見守っていくべきでしょう。
(根来 諭)
September 25, 2024
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