新型コロナ時代の危機管理はOODAループで回す
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新型コロナウイルス感染症が「世界の在り方」を文字通り一変させました。例えば、多くの企業はサプライチェーンの多様化させることで危機に備えてきましたが、全世界のサプライチェーンが一斉に止まるという事象は人類史上初めての出来事でした。世界の経営者達は全く想定をしていなかった新しいタイプの危機にいきなり放り込まれたのです。
組織にとって「想定していなかった危機」は常に起こりえます。想定できる危機は事前に準備をしておくことによって回避をすることができます。例えば、水害を想定して堤防を作る、大地震を想定して耐震性をあげ避難計画を策定する等々です。しかし、社会はより複雑化し、温暖化等による地球環境の変化も加速しています。
日本においては、温暖化によるデング熱の風土化が予測されていますし、毎年ひどくなる一方の水害は平野部に甚大な被害をもたらす可能性があります。富士山や浅間山はいつ大噴火してもおかしくない活火山ですし、それこそコンピューターウイルスにより複雑化した通信ネットワークがダウンしたら・・・。
皮肉ではありますが、これだけ輻輳化する社会では、1000年に1度の厄災が10年に1度以上の頻度で起きているし、これからも起きるのが現実です。リーダーたちはまさに一寸先も見えないVUCA(※)の時代に放り込まれているといえるでしょう。
戦闘機のパイロットから学ぶ意思決定
このような想像以上に変化の速い状況下において、組織のリーダーはいかに意思決定を下していけばよいでしょうか。その答えの一つが、航空戦術家のジョン・ボイドによる研究にあります。自身も戦闘機のパイロットであったボイドは朝鮮戦争の際に使用されたソ連製のMig15と米国のF86-セイバーの違いについて着目します。
実は、ソ連製Mig15は加速や旋回性といった性能において、F86を圧倒的に上回っていました。つまり、Mig15はテクノロジー面で圧倒的に勝っていたわけです。米軍は当初その状態を非常に憂慮し脅威と感じていました。しかし、蓋を開けてみると、実に10対1の圧倒的差でF86がMig15に対して航空戦(ドッグファイト)に勝利するということが起きます。当時はパイロットの訓練の差が主な理由であると考えられました。
自身も出撃し、敵と戦ったボイドはこれを疑問に思いました。そして、機体とパイロットを研究し、この戦績の差がパイロットの訓練だけに起因しないことを突き止めたのです。機体の性能の差は明らかでした、では何が戦績の差に結びついたのでしょうか。この写真(左上がF86, 右下がMig15)を見て気づきますでしょうか?
ボイドが喝破したのは、F86とMig15におけるパイロットの「視界の違い」です。F86が視界を大きくとっているのに対し、Mig15は機体性能を重視したためにパイロットの視界が小さくなっていました。また、F86は操舵に油圧を採用していたため、パイロットの操作にかかる負担が小さかったということもあります。
戦闘機のドッグファイトは意思決定のスピードが極めて重要です。状況を速やかにとらえ、理解し、そして速やかに決定する。その決定をするのはパイロットである人間です。つまり、パイロットの意思決定を中心に置いた設計がテクノロジーの差を凌駕したのです。
ボイドのOODAループ理論
後にボイドはこの戦闘機パイロットの意思決定スピードに基づき、OODAループ理論を発表します。つまり、パイロットの思考回路を、「みる(Observe)・わかる(Orient)・きめる(Decide)・うごく(Act)」のループとして表現したのです。それぞれの頭文字をとってOODAであり、この思考回路は、環境変化スピードの速い状況下におけるプロダクトの設計思想や組織経営手法として有効です。
OODAはよく知られているPDCAとの比較の元に語られることが多々あります。PDCAは文字通り「計画(Plan)・行動(Do)・評価(Check)・改善(Action)」の頭文字であり、日本でも多くの組織運営の手法として取り入れられています。
平時のプロセス効率化において、PDCAは非常にうまく機能すると考えています。日本の組織はこのPDCAをうまく回すことにより効率化を図り成長することができました。しかし、PDCAはスピードへの対応が必要な局面において機能しません。Specteeでは数多くのクライアント企業の危機管理計画策定に携わり研究を重ねる中で、PDCAよりもOODAの方が適切であるとの結論に至っています。
OODAとPDCAの一番大きい違い、それはOODAにはPDCAにある「計画(Plan)」がなく、代わりに「みる(Observe)」ことから始まることです。
環境変化のスピードがものすごく速い時代、さらに危機管理において想定していない局面にぶち当たった際、リーダー達には「計画」たてて「改善」をしている時間がありません。そのような際には、まず戦闘機のドッグファイトのように「クリアで広い視界を得ること」が何よりも重要です。いかに多くの信頼できる(ごみの少ない)情報を得ているかが重要になります。
数多くの情報を処理する(わかる)ためには高速な情報処理能力、つまり「脳の機能」が必要です。危機下においては急激に情報が増えます。その情報を処理する脳がないとあたふたしてしまうことでしょう。そのためには、普段から広い視界を処理することを意識して組織の脳となる機能を養わなければいけません。
さらに、それに基づいて決断する(きめる)こともリーダーの重要な役目です。OODAでは当初より計画がないので、正しい間違っているという判断基準はありません。むしろ一つの意思決定が生死を分けることにつながりますので、いち早く決断し、それによる環境の変化を観察したらさらに決断するということを繰り返していくことが重要になるのです。
危機下で信頼できる「みる」ための技術
SpecteeではこのOODAループにおいて組織のリーダーや危機管理責任者が刻一刻と変わる状況を「みる(Observe)」ために必要なダッシュボード「Spectee Pro」を提供しています。すでに国内300社以上に導入されており、モバイル時代の情報の海の中から、リアルタイムで情報を告知し伝えています。組織においては普段からこれらの情報を利用することにより、有事においても冷静な判断をくだす頭脳が育ちます。
さらに、危機からの脱出局面において、リーダー達はすごい技術や突飛な技術といったものに目が行きがちです。しかしながら、危機下において信頼できるのは汎用化した技術であるということも忘れないでおきましょう。Specteeではモバイル・テクノロジーから集まる情報を日々解析しています。また、危機においても確実に運用できる体制を整えています。
(齋藤 和紀)
May 2, 2020
※ VUCA
Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(不明確)の頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワード
参考情報
なぜF86は高性能のミグ15に勝利できたのか?(日経BizGate)
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3110682029052018000000
OODAは知識創造モデルではない(DIAMOND Online)
https://diamond.jp/quarterly/articles/print/167