レポート

ハマスの攻撃は予測できなかったのか?SNSに現れた変化を読む

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2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム武装組織ハマスがイスラエルへの攻撃を突如として開始。大都市テルアビブを含むイスラエル各地に数千発のロケット弾を撃ち込むとともに、ガザ地区に隣接するイスラエル南部に戦闘員を侵入させ、イスラエル人や外国人など民間人を多数殺傷・拉致しました。イスラエル軍はこれに対して空爆を含む反撃を行うとともに、ハマスの掃討作戦を実行しており、日々犠牲者の数が増加しています。

イスラエル・パレスチナにおける紛争では、これまで数次の戦争や日常的な衝突を繰り返してきましたが、イスラエル側にこれほど多くの死者が出た前例はなく、またイスラエルの反撃によってパレスチナの罪のない民間人が多く命を落とし、その様子がSNSで可視化されることで、世界は暗澹たる雰囲気に支配されています。


イスラエルは敵に囲まれた状況で建国したという事情もあり、強力な情報機関を必要としました。有名な「モサド(イスラエル諜報特務庁)」を擁するなど、その諜報能力は高く評価されていましたが、今回のハマスによる奇襲攻撃を予測することはできなかったのでしょうか?

米国New York Times紙による検証記事How Years of Israeli Failures on Hamas Led to a Devastating Attackによると、イスラエル側はハマスに戦争する気はないと確信していたということです。イスラエルの諜報部隊は約1年前にハマスの無線傍受を取りやめており、その隙をついてハマスはイスラエル側に悟られずに大規模な軍事訓練を実施していたともしています。さらにイスラエル側は、「Hamas was trying to foment violence against Israelis in the West Bank, which is controlled by its rival, the Palestinian Authority ハマスは(パレスチナ内のライバルである)パレスチナ自治政府が支配するヨルダン川西岸でイスラエル人への暴力を煽ろうとしている」「Iran and Hezbollah, its most powerful proxy force, presented the gravest threat イランとその代理勢力である(レバノンの)ヒズボラがイスラエルにとって最大の脅威である」といった分析をもとに、ハマスがガザ地区からイスラエルに攻撃をしかける可能性は低いと考えていたようです。

スペクティでは日々、国際的な危機事象の情報をSNSから収集して配信していますが、デモや争乱に関する配信数が当地で顕著に増えていることを感じていました。下記グラフは、スペクティが覚知した事象を「ミサイル攻撃・空襲」「交戦・軍事活動」「テロ攻撃・銃撃・襲撃」「抗議デモ・衝突・暴動」の4つに分類し、その配信数の変化を2021年1月から、今回のハマスによる攻撃が発生した2023年10月まで追ったものです。

2021年5月に発生した11日間にわたる軍事衝突のあと、配信数は一旦非常に少なくなりますが、2022年4月には聖地エルサレムにおいて、主にイスラエル警察とパレスチナ人の間で大規模な衝突が発生します。次に潮目が変わるのは2022年11月、総選挙で右派勢力が勝利し、翌12月にはネタニヤフ氏が率いる右派「リクード」と、極右の宗教政党「宗教シオニズム」による連立政権が樹立されます。このイスラエル政権の右傾化後、危機事象の配信数は増加していき、2023年5月にはイスラエルと、ガザ地区を拠点とするハマスとは別の武装組織PIJ(パレスチナ・イスラミック・ジハード)の軍事衝突が発生。その後、配信数は高止まりしたまま2023年10月に突入することとなります。

次に、「抗議デモ・衝突・暴動」の発生がどのように推移したのかに着目してみたいと思います。下記は、2023年10月をさかのぼる2年間を、6か月ごとに区切り、どの場所で「抗議デモ・衝突・暴動」が発生したのかを追ったものです。徐々に発生数が増加していることがわかりますが、ガザ地区においてそれは決して顕著ではなく、(ハマスとはライバルであるパレスチナ自治政府が自治を行う)ヨルダン川西岸地区において急増したことがよくわかります。これは「ハマスはヨルダン川西岸でイスラエル人への暴力を煽ろうとしている」としたNew York Times紙による検証記事の内容と合致します。

スペクティでは、SNSをはじめとして様々なデータを収集し、そのビッグデータを解析することでリスクを分析し、「危機を可視化」することを目指しています。水害被害を防ぐための河川水位予測はその最たるものです。しかし同様にこのような地政学リスク・紛争リスクについても、正確に危機事象の発生を予知することはできないまでも、リスクの高まりを感知することは可能ではないかと考えています。今回の例で言えば、ヨルダン川西岸地区における抗議デモの急増という傾向と、その他の情報(例えば衛星画像、人の流れの情報、諜報活動で得られた情報など)を組み合わせることによって、ある程度の予測はできたかもしれません。そうした予測を行うためのデータ収集と技術開発に対し、スペクティは今後も投資を続けていきます。

最後に、今回の戦争が一刻も早く終息することを祈ります。

2023年8月にヨルダン川西岸地区で発生したデモの様子

(根来 諭)
November 08, 2023


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