レポート

沈静化しないイランの抗議デモ、国際社会への影響は

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2022年9月13日、22歳のクルド系イラン人女性、アフサ・アミニさんが「ヒジャブ(イスラム教徒が被るスカーフ)の被り方が不適切」との理由で風紀警察に逮捕されました。その後、9月16日にアミニさんは死亡。当局は「心臓発作を起こして亡くなった」と発表したものの、ソーシャルメディアには病院のベッドに横たわり、顔が腫れあがった彼女の写真が広く共有され、それをきっかけに激しい抗議デモが巻き起こりました。

(Credit:@BHHACK3R via Spectee)

下記グラフは、Spectee Proにおいて配信した、イランにおける抗議デモの数の推移を示したものです(配信数でありデモの件数とイコールではありません)。アミニさんの亡くなった日の翌日から発生したデモはその後、燎原の火の如くイラン全土に広がっていきました。10月末を迎えてもその勢いは収まる様子がありません。

なぜこれまで大規模に

イランでは、これまでも抗議デモは発生していました。しかし、今回なぜヒジャブの問題を発端に、これほど長く続く大きなデモに発展したのでしょうか。

イランはイスラム教国のイメージが強くありますが、実はパフラヴィー朝(1925年-1979年)の時代には大胆な世俗化政策が取られました。パフラヴィー朝の国王レザー・シャーは、近代化政策の一環としてヒジャブなどの着用を禁止し、西洋的な価値観やファッションが流れ込み、イラン女性は自由を謳歌しました。しかしその後の1979年、イラン革命が起きたことによって国家運営がイスラムの価値観に基づいたものに振り戻されたのです。しかしその中でも、イランでは髪を多く見せたり、華美な服装をする女性もおり、特にハタミ政権(1997年-2005年)では服装に対する厳格さが減じられました。筆者もイランに何度も訪れたことがありますが、ショッピングモールにいるような若い女性は、競ってなるべく前髪を出すようなスカーフの付け方をしているのを目にしました。長くイスラムの厳格な規範の中にあったアラビア半島のイスラム教国、例えばサウジアラビアやカタール等と比べると、イランには一時的であっても西洋的でリベラルな価値観に染まった時期があったわけです。そこに昨年、保守強硬派のライシ大統領が就任して服装への規制がまた厳格になったことが、今回のアミニさんの殺害につながっています。また、そうしたイスラムの厳格な価値観の強制以外にも、長く続く経済制裁によってインフレ率や失業率が高止まりしており、生活が厳しい事に対しての不満が募っているはずです。大学を舞台に、若者たちが抗議の声を上げているのが象徴的です。

さらに今回特徴的なのは、首都であるテヘランにとどまらずイラン全土にデモが及んでいることです。下図の左は、州ごとにSpectee Proでの配信数をプロットしたものです。配信のない州はグレーアウトしてありますが、ほぼ全土にデモが及んでいることがわかります。また、アミニさんが少数民族クルド人の出自であることも大きな意味を持っていると考えられます。下図の右はイランにおける民族の分布図ですが、Kurd(クルド人)の住む北西部、クルディスターン州や西アザルバイジャン州でデモが頻発しています。また、最南東端のBalochs(バルーチ人)が多いバルーチェスターン州でも14報を配信しています。イランは多民族国家で、2017年の国勢調査によると人口約8千万人のうち主要民族のペルシア人の割合は61%に過ぎず、他にアゼリー人、クルド人、ロル人、バルーチ人、ギラキ人、マザンダラニ人、アラブ人、トルクメン人など多くの民族がひしめき合います。主に辺境地に住む少数民族はイラン政府から軽視され、経済発展から取り残され、また分離独立の芽を摘むために文化的にも抑圧されてきました。それに対する積もり積もった不満が今回のデモで爆発しているという側面も否めないでしょう。

(右図出典:https://narcisbnb.com/ethnic-groups-in-iran/)

世界への影響は

今後の抗議デモのエスカレートの仕方とそれに対するイラン政府の対応しだいでは、今後多くの命が失われれる事態も予想されます。また、その反対に、体制を揺るがし、転覆させる事態に発展する可能性も否定できません。

国際社会にはどのような影響を与えるでしょうか?イランは既に長らく制裁を受けているため、この抗議デモの広がりによって石油の輸出が滞ったとしても、グローバルなエネルギー市場に与える影響は限定的だと見られています。しかし、体制の転換が実現した場合には当然様々な影響が出てくるでしょう。

特に、ロシアのウクライナ侵攻への影響は大きいと思われます。昨今、核合意立て直しの見通しが立たない中、ライシ大統領はロシアに接近し、幅広い分野で協力関係の強化を図ってきていました。クリミア大橋破壊への報復としてのロシアによるキーウへの攻撃の際も、イランからミサイルやドローンの援助がなされたと報じられています。イラン政府が倒れればロシアは後ろ盾を失い、さらに孤立し、苦境に陥るでしょう。スペクティは今後も引き続き、動向を注視していきます。

最後に、いくつか現地の状況がわかるSNSへの投稿をご紹介いたします。



9月25日、観光地としても有名なイスファハーンでデモ隊が暴徒化




9月30日、南東部のバルーチ人の多く住む都市でデモ隊と警察が衝突




10月12日、ブーシェフル州のアサルーイェでデモ隊が高速道路を封鎖




10月15日、アルボーツ州カラジュにて平服の警察が女性を逮捕する様子




10月26日、テヘランで警察がデモ隊に発砲する様子



(根来 諭)
November 2, 2022


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