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イスラム教におけるラマダン:危機管理の注意点は?

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ラマダンとは?

イスラム教徒が毎年行う断食、ラマダン。言葉としては聞いたことがある方も多いかと思います。

ラマダンとは、アラビア語で「9月」の意味。文字通りイスラム暦9月の一か月間、断食を行います。イスラム暦(またはヒジュラ暦)は、イスラム教の創始者・預言者であるムハンマドがメッカからメディナに脱出した西暦622年7月15日を起算点とした純太陰暦(太陽ではなく月の満ち欠けの周期をもとにする)で、毎年11日ずつ西暦とずれていくため、ラマダンの時期は西暦の上で考えると毎年11日ずつ早まっていきます。今年2021年は、4月12日の夕方に始まり、5月12日の夕方に終了します(ちなみに2022年は4月1日から4月30日になります)。

「断食」というとなんだか深刻で悲壮な感じがしますが、実際に食を絶つのは日が出ている間のみ。日没とともに家族や友人と豪華な食事を楽しむため、スーパーマーケットや商店にとっては実は書き入れ時でもあります。朝も、夜明けの前に一度起きて軽い食事をし、日中の断食に備えます。ただし、日中の断食をどこまで厳格に行うかは信仰の度合いによるようで、食べ物だけではなく水分を一切とらない人もいれば、さらに厳しく唾も飲み込まずに吐き出すという人もいます。筆者はラマダン中にドバイからサウジアラビアのリヤドに飛行機で移動した際、床に唾を吐き続ける人が多数いて閉口した経験があります。

人々は、“良いラマダンを”という意味の「ラマダン・ムバラク(Ramadan Mubarak)」または、“恵み多いラマダン、おめでとう”という意味の「ラマダン・カリーム(Ramadan Kareem)」という声を掛け合うのが慣例で、特に日没後はお祭りのようなムードになります。


ラマダンの宗教的な意味合い

経典であるコーランに、イスラム教徒にとっての5つの義務が定められています。

  • 信仰告白:イスラム教徒であることを表明すること
  • 礼  拝:スンニ派は日に5回、シーア派は3回の礼拝を行うこと
  • 喜  捨:貧しい人々のために寄付を行うこと
  • 断  食:ラマダン月に断食を行うこと
  • 巡  礼:少なくとも一生に一度、メッカを巡礼すること

ラマダンの断食はこのように、コーランに定められた義務のひとつです。厳密には「断食」には「サウム=欲を戒める」の意味が込められており、ラマダン期間中は飲食だけでなく、喫煙、性行為、喧嘩、悪口なども慎むことになります。世俗的な欲望を抑えることで自制心を強め、また貧しい人の苦しみを身をもって共有することで自己を鍛錬し、コーランを読み直して静かに過ごすことが求められます。また、同じく5つの義務のひとつ、喜捨もこの期間に盛んに行われます。蓄えの2.5%を施すことが義務とされますが、当然貧しい人は払えない場合もある一方、富裕層はそれ以上の喜捨をすることもあります。

世界のイスラム教徒人口は2017年の国連の統計で約18億人。世界人口の4人に1人、約24%を占めるまさに世界宗教となっています。地域的にも中東だけでなく、アジアやアフリカにも広がっており、そうした多様な人々がラマダンというひとつの宗教行事を共有することで、イスラム教徒のコミュニティとしての一体感を感じ、宗教心が高まる期間だと言えるでしょう。


テロ活動の活発化に注意

このような宗教心の高まりとともに、リスクが高まるのがテロ活動による被害です。(イスラム教徒にとっての)善行が推奨される期間であるため、イスラム原理主義を掲げるテロリスト組織はこのタイミングで異教徒やイスラム教徒を圧する者に対する攻撃を起こします。近年ラマダン及びその前後で起きたテロのうち、主だったものを下記に例示します。

今年2021年のラマダンはまだ1週間残っていますが、4月18日にはエジプトのシナイ半島を拠点とする「イスラム国シナイ州」が3名を殺害する動画を公開したり、4月23日にはフランスのランブイエの警察署を、チュニジア移民のイスラム教徒が襲撃し1名が死亡する事件が発生しました。またパキスタンでは、預言者ムハンマドの風刺画に対するフランスのマクロン大統領の発言をめぐり、イスラム原理主義組織TLPの主導で激しい抗議活動が展開されて死者が出たほか、バルチスタン州クエッタにあるホテルの駐車場で自動車爆弾が爆発し5名が死亡する事件(パキスタン・タリバン運動が犯行声明)もありました。

さらに、いまだ収束していないのがイスラエルのエルサレムでの騒乱です。ことの起こりは、ユダヤ人極右グループが「パレスチナ人に死を」と過激なスローガンを叫びながら行進したことでしたが、警察がこれに抗議するパレスチナ人グループとの間に入って解散させた後、ラマダン期間の日没後にイスラム教徒が集まる旧市街につながる道を封鎖したことから、パレスチナ人側の不満が爆発して武装警察と連日の衝突を繰り返しています。


危機管理上の注意点は

いずれにしても現在は新型コロナウイルスによって旅行すること自体が難しいですが、ラマダン期間中にイスラム教の国を観光旅行で訪れることはできるだけ避けた方が無難と思われます。観光施設などが早く閉まったり、レストランが日中閉まっていたりするためです。業務出張などで訪れる場合も、日中にイスラム教徒の前で食事をしないようにするのはもちろんのこと(アラブ諸国では日中、公共の場で飲食・喫煙をすると罰金を科せられるケースもあります)、女性が必要以上に肌を出さないなど、イスラム教徒の習慣に平素よりも配慮することが大切です。

また、金曜日はイスラム教徒の集団礼拝日であることから、モスクなど宗教施設や群衆を狙ったテロが起きやすいと言われています。それ以外にも人が多く集まる場所は避ける、不審な人物や状況を察知したらすぐにその場を離れるなどの対応が必要です。


多産を良しとするイスラム教徒の人口は今後も大きく増加し、Pew Research Centerのレポートによると、2100年にはキリスト教徒を抜いて世界で最大になると予測されています。日本人にはあまり馴染みのないイスラム教ですが、その習慣や背後にある考え方を理解して軋轢を少なくすることが、危機管理の上でも大切なことではないでしょうか。

(SN)
March 06, 2021


参考情報

世界と日本のムスリム人口(店田廣文)
https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=47583&item_no=1&attribute_id=162&file_no=1

Muslims and Islam: Key findings in the U.S. and around the world (Pew Research Center)
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/08/09/muslims-and-islam-key-findings-in-the-u-s-and-around-the-world/

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