令和3年版「情報通信白書」から読み解く、あるべき防災情報伝達
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情報通信白書とは、総務省が日本の情報通信を取り巻く現況及び今後の政策の動向について、国民の理解を得ることを目的として年次で発行している文書です。日本政府が情報通信について何を課題としてとらえ、それに対してどのような政策を立案・実行していこうとしているのかを知ることができます。
令和3年版「情報通信白書」では「デジタルで支える暮らしと経済」をテーマとし、デジタル化への取り組みについて振り返ると共に、国民生活・企業活動・公的分野におけるデジタル活用の現状と課題について検証しています。本稿では、防災の観点からこれを読み解いてみたいと思います。
デジタル化の振り返りと課題
日本では2000年に情報通信技術戦略本部が設定されて以来、ICTインフラの整備、ICT利活用促進、そしてデジタル社会の構築が進められてきました。その結果、我が国のICTインフラの整備は世界的に見ても進んでいると言えるものの、電子政府の実現やオープンデータの活用といった分野は進展させる余地が大きく、官・民共同で取り組むべき課題は多いとされています。
国民が使っている情報通信機器という点では、2010年では世帯保有率10%だったスマートフォンが、2020年には約90%となっており、この10年で急速な普及を見せたことがわかります。それに伴って、モバイル端末によるインターネット利用が拡大しましたが、その内容はショッピングやエンターテインメント関係の利用が中心で、公的サービスの分野での利用率が低いことが問題点として挙げられています。
そして、今後求められる社会像については、世界的に「災害の激甚化」が言われるなか、「災害の発生といった非常時においても、国民生活や経済活動における混乱を防げるような最低限の社会・経済機能を維持できる、強靱性が確保された社会 の形成が、都市と地方のいずれにも求められている」として、デジタル化による社会のレジリエンス化を国としての大きな課題としています。
災害時における情報流通
そのような背景を踏まえたうえで、災害時における情報の流通についてはどのような進展があったでしょうか。
災害時には、何が起きているのかを把握する「情報収集」と、その結果、避難指示などを住民などに伝達する「情報伝達」のフェーズに分かれます。「情報収集」については、河川カメラや危機管理型水位計の導入、ドローンの活用、またSNSの利用率拡大(下図参照)と弊社が提供している「Spectee Pro」のような新しいサービスの登場により、集められる情報の質と量は近年飛躍的に向上しているものと考えられます。
一方、「情報伝達」については、国・地方公共団体による災害情報を一元的に集約し、テレビやラジオ、スマートフォン等の多様なメディアに一斉配信する仕組みである「Lアラート」の運用開始や、高齢者避難支援の「逃げなきゃコール」の提供、訪日外国人向けの情報伝達アプリプッシュ型情報配信アプリ「Safety tips」の提供などの施策は打たれているものの、住民個人に最適な情報が、最適なタイミングで伝達できているとは言い難いのではないでしょうか。住民の方の属性(年齢や障害の有無)や住んでいる場所の特徴は多様で、防災無線のような画一的な情報提供では足りないことは明白です。究極的には一人一人に合わせた情報伝達ができることがゴールになります。
パーソナルデータが鍵
昨今は、避難先としてプライバシーの守れない避難所ではなく、車中泊を選ぶ被災者の方も多くおられます(2016年熊本地震の際は約4割の方が車中泊を選択)。このように避難先が指定避難所以外にも多様化してきたことにより、自治体が住民の避難行動を十分に追うことができず、対応策や物資の必要量などを決定するための状況把握が難しくなっている現状があります。
そんな中で住民個人に合わせた災害情報の伝達を行うには、どの個人がどこにいるのかというパーソナルデータがどうしても必要になります。近年ではGPSによる位置情報を活用した取り組みも見られます。
福岡市では指定外避難所の把握などに対応できるよう、防災アプリ「ツナガル+」を2018年から提供しており、スマートフォンに内蔵されたGPSによる位置情報を活用してどこにどれだけの被災者がいるのかを行政が把握することができ、支援情報や生活再建情報の共有をすることができます。
またKDDIでは、GPSから取得したスマートフォンの位置情報と契約者の年齢、性別などの属性情報を紐付けた上で、地図上において人の流れや滞在状況を可視化することができる「KDDI Location Analyzer」の提供を行っており、住民側から情報発信をしなくとも、自動取得した位置情報データを活用して被災者のいる場所や数の推移を把握することで、行政の意思決定に活用することができます。
情報セキュリティとプライバシー
個人に最適化された防災情報を提供していくには、どうしてもパーソナルデータを活用していく必要がある一方、住民側にはそれに対する不安感・抵抗感があることも情報通信白書の調査からわかります。
下図は、「サービス・アプリケーションの利用にあたってパーソナルデータを提供することへの不安」を日・米・独・中で比較したものです。「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」を合わせるとどの国でも6割を超える方々が不安感を抱いていることがわかります。
「提供するに当たって不安に感じるパーソナルデータ」としては「公的な個人識別番号」「指名・住所」「連絡先」「位置情報、行動履歴」など、個人に最適化された情報伝達に必要な項目について特に不安が高いことがわかります。
しかし一方で、「利用目的ごとのパーソナルデータ提供意向」を見てみると、「自分への経済的なメリットが受けられる」と並んで「大規模災害などの緊急時や防災に関わる内容の場合」については、提供してもよいとする人の割合が高いことは注目に値します。
個々人に合わせた災害情報伝達に必要なパーソナルデータ。しかし、個人を特定できてしまう情報の提供に抵抗があるのは当然で、公共の福祉とプライバシーが天秤にかけられた形になっています。
今後、パーソナルデータを防災目的で利用するには、①個人情報が漏洩しない情報セキュリティの確保を含めた行政に対する社会全体の信頼感の醸成や、②大規模災害などの緊急時にはごく時限的に行政が個人情報を利活用できるような法制の整備、③それに対する国民全体の合意をとりつけておくこと、などが必要となるでしょう。
(根来 諭)
November 24, 2021
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