危機管理としての「攻めのリモートワーク」と、ポストコロナの組織運営
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リモートワークの導入状況
新型コロナウイルスの流行を契機に、リモートワークが本格導入された職場が多くあると思います。2020年9月に発表された、東京都産業局による「テレワーク導入実態調査」によると、4社に3社が導入している、または導入を予定しており、大企業の方が導入割合が高いことを考えると、実際にリモートワークを始めた、または始める予定の人数の割合はもっと多いものと推察できます。
また、今後の動向についても、すでに導入している会社のうち8割がリモートワークを継続していく意向を示しており、リモートワークは、ポスト・コロナにおいても我々のワークスタイルとして一定程度定着するものと思われます。
コロナ禍以前にも”リモートワーク”や”テレワーク”という概念は当然あり、業務効率の向上やBCP(事業継続計画)、採用力強化などの目的で取り組むものとして提唱されていました。しかし、日本は特に都市部においては通勤手段が充実していることや、新しいワークスタイルに対する懐疑心(特に人材のマネジメントに対する懸念)があり、ほとんど導入は進んでいませんでした。2011年の東日本大震災の際にも、通勤困難な状況にもかかわらず、多くの社員がなんとか出社しようとしたことが思い起こされます。
「攻めのリモートワーク」へ
コロナ禍という外圧によって強制的に導入が進んだリモートワークは、リスクを回避する手段として取り組む「守りのリモートワーク」と言うことができるでしょう。ポスト・コロナに向けては、これを経営課題の解決に向けて戦略的に取り組む「攻めのリモートワーク」に転じていくことが、企業の競争力維持・向上において大変重要になると考えます。「守りのリモートワーク」では、新型コロナウイルスへの感染を防ぐ意味での在宅勤務が中心となりますが、「攻めのリモートワーク」では、出したいアウトプットに合せて、在宅、出社、シェアオフィスの利用やオフサイトミーティング開催など様々な場を戦略的に使い分けることで付加価値の最大化を図るべきです。
そして勿論、リモートワークは危機管理、特にBCPという観点において大きな強みになります。これまでオフィスに人員が出社しないと回らなかったものが、在宅でも回るようになれば、大規模災害時に事業を継続できる可能性は高まります。リモートワークのインフラが整えば、積極的な拠点の分散を検討してもいいでしょう。防災・危機管理に取り組むスペクティにおいては、国内では沖縄、長野、愛知、栃木に、海外でも米国、台湾、シンガポール、デンマークにメンバーが散らばっており、メインのオフィスがある東京のメンバーが災害で稼働できなくなったしても、サービスを提供し続けられる体制を構築しています。BCPは、災害時のアクションを規定しておくことによってダメージを最小限にし、最速の復旧を可能にすることが基本ですが、平時から災害に強い体制にしておくことができれば、それ以上の対策はありません。
求心力と遠心力
ただし、リモートワークという大きな働き方の変革を漠然と導入するだけで、組織の在り方を再考しなければ、その組織は崩壊という「危機」に瀕することになります。組織を健康に保つには、「求心力」と「遠心力」のバランスを取ることが大切と言われます。「求心力」は、組織が人々を引きつける力ですが、これが強すぎても組織は内向きに硬直化していくことになります。一方、「遠心力」はメンバーが外に向けて自由に動いていく力で、これが強すぎては人々がバラバラに動くだけで、組織が実現したい方向に一致団結して進んでいくことを困難にします。
リモートワークは、人々の持つ「個」を強め、遠心力を強力に働かせる施策と言えます。であるならば、対となる「求心力」を強める施策を同時に打つ必要があります。それぞれが別の場所で働いていると、どうしてもコミュニケーションは疎かになります。そこをカバーするために、チームビルディングのイベントを開催したり、サークル活動を支援したりすることでメンバー同士のコミュニケーションを促進することは今後重要になると思われます。また、オフィスの位置づけもコミュニケーション促進を主眼に置いた場に変わっていくでしょう。例えば、月に一度はメンバー全員が集まってワークショップをするなど、一般的なデスクやチェア、キャビネットなどの什器は不要になるかもしれません。そして、会社として実現したいビジョンやミッションも、これまで以上に意識して共有するべきです。メンバーが生き生きと自由に動いて最大限に力を発揮しつつ、組織全体としては向かうべき方向に向かっている、という状況を生み出すことが重要です。
依然、新型コロナウイルスの流行は終わりが見えない状況ではありますが、ポスト・コロナを見据え、「攻めのリモートワーク」を取り入れた組織が、終息後に良いスタートダッシュが切れるのではないでしょうか。
(根来 諭)
January 20, 2021
参考情報
テレワーク導入実態調査結果(東京都 産業局)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/09/14/documents/10_01.pdf