レポート

2023年リスク展望:高まる地政学リスク

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新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

2023年最初のレポートとして、想定しておくべきリスクについて展望を述べたいと思います。我々を取り囲むリスクは多岐に渡り、自然災害の多発化・激甚化も大きな課題ではありますが、現在最も注目すべきは「地政学リスク」であると考えています。

●地政学リスクの高まり

第二次世界大戦後、現在ほど地政学リスクが高まった時はないと言えるでしょう。

まずはウクライナ情勢があります。現在戦況はウクライナ優勢に傾いていますが、ロシア軍も兵力を補給しつつインフラや都市部へのミサイル攻撃を繰り返し、停戦につながる兆しは全く見えていません。ロシアが核兵器をちらつかせ、キーウを再攻撃するという情報があるなど、戦況はさらにエスカレートしていく可能性も十分にあります。核兵器の実使用やNATOとの交戦に至る事態となれば、国際情勢はさらに混迷を極めるでしょう。

一方、中国では習近平総書記が 3 期目の政権を発足させ、党内で絶大な権威を確立しました。しかし国内情勢を見てみると、新型コロナウイルス対応の失策、不動産不況、国内格差の拡大、社会保障が行きわたらない内の人口ピークアウトなど多くの問題を抱えています。これまでの経済成長を支えてきた民間企業の勢いを削ぐような、政治的圧力の強化も見られます。2022年12月に大規模なデモ活動によってコロナ対策の大幅な転換が実現したことを成功体験に、民衆の抗議活動・政権への反対運動が活気づく可能性もあります。内政的な難局に接した場合、独裁的なポジションを築いた習近平国家主席が、ロシアのプーチン大統領と同じく「合理的ではない判断」を取る危険が高まります。目を外にそらせるためにこれまで以上に攻撃的な外交をしかけてくることも考えられ、その中には台湾への軍事的圧力強化も含まれます。台湾及びその周辺のシーレーンや航空路は、半導体をはじめとした製品のサプライチェーンにおいて重要な意味を持ちます。

こうした動きをもとに世界の分断が進むことは間違いないでしょう。ロシアは西側諸国からの孤立化を深める結果、中国への依存度を増すことになります。そして、中国はロシアや外交で味方につけたグローバルサウス諸国を巻き込みながら、米国主導の世界秩序に挑戦を続け、中ロを始めとした「強権的国家陣営」と米国と筆頭とした「民主主義国家陣営」が対立の構図が生まれています。この「世界の分断」の結果、なにが起こるでしょうか。

●世界の分断とグローバル化の逆転

数十年に渡り、国際社会はつながりを深め、経済はグローバル化とともに発展を続けてきました。世界が分断することでその動きが逆回転することは、様々なリスクにつながっていきます。

両陣営が分断することで、サプライチェーンの構造を大きく変えていかなければならなくなる可能性が高くなります。(主に米中の)サプライチェーンの切り離しである「デカップリング」、国内回帰させる「リショアリング」、友好国への移転である「フレンド・ショアリング」と言った動きが、半導体や希少な鉱物資源などを中心として進んでいくことになります。こうした動きに対応できなければ、当該企業のサプライチェーンの脆弱性は高まってしまいます。どこから調達し、どこで作り、どこで売るのかについて大幅な刷新を行う必要性が生まれています。

また、技術流出や知的財産権侵害への警戒、人権侵害への批判から、様々な新しい規制が設けられる動きも加速するでしょう。輸出入の制限や対外投資を審査する制度の新設など、対応しなければならない制度が増加するものと思われます。アパレル製造小売業大手のユニクロが2021年、新疆ウイグル自治区産の綿にからみ対応を迫られたことは記憶に新しいです。

そして気候変動による脱炭素化の動きは、エネルギーを巡る国際情勢に大きな影響を与えます。中東では、サウジアラビアを筆頭とした親米アラブ諸国と米国の関係が弱まり、パワーバランスに変化が起きています。反政府運動が止まらないイランは、ロシアとの軍事的結びつきを深め、状況打開のためにイスラエルとの軍事衝突を起こす危険性も高まっています。

さらに、分断した陣営がただちに大規模な武力衝突につながっていく可能性は低いと思われるものの、ウクライナ戦争で見られたように、現代の戦争の重要な要素となった「サイバー空間での軍拡競争」はさらに加速していくと考えられます。サイバー攻撃では、当該国における重要なインフラやサプライチェーンもその対象となります。我々の社会がネットワークに依存して成り立っている現在、急に社会機能を停止させられるリスクは高まり続けています。


このようなグローバル化の逆転は、世界経済の発展にブレーキをかけることにつながります。自由貿易による物価抑制が困難となることでインフレが進行。また、日銀も政策転換を表明したばかりですが、世界的にも長年続いた金融緩和が終焉を迎え、景気先行きは今までになく不透明になっています。

不確実性が限りなく高まる2023年、我々にできることは、想像力を最大限に働かせて備えを怠らないことです。

(根来 諭)
January 04, 2023


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