2021年、世界が注目するリスクは何か

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2021年もすでに1か月が過ぎようとしています。新型コロナウイルスとの戦いはまだ終わりが見えませんが、今年以降において世界はどのようなリスクを認識しているのか、いくつかのレポートや報告から概観したいと思います。



1月19日、経済・政治・学問の世界のリーダーが連携して、世界的な問題の改善に取り組むことを目的とした非営利団体「世界経済フォーラム」が、世界の政府や企業など650の加盟団体へのサーベイをもとにグローバルなリスクについてまとめた「The Global Risks Report 2021」 を発表しました。感染症のリスクが新型コロナウイルスの流行という形で顕在化し、またそれによって経済的格差や社会の分断が広がることを危惧する内容となっています。2021年の「今後10年間で発生する可能性が高いリスク」「10年間で最も影響の大きいリスク」を5年前の「「The Global Risks Report 2016」と比較して、トレンドの変化を分析します。

まず、2016年には「感染症の流行」は、影響の大きいリスクの8番目に挙げられていたのみでしたが、最新のレポートでは発生可能性及び影響どちらの面でもリストに入ってきており、まさに世界は顕在化した感染症リスクのインパクトの大きさと、今後も発生するであろう可能性について強く危惧していることが伺えます。

次に、環境にかかわるリスクへの関心は5年前にも非常に高いものがありましたが、昨今世界的に続く異常気象や激甚化・多発化する自然災害を受けて、より実感をもって気候変動が人間社会にとって大きなリスクとなっていることが認識されたものと思われます。新しく就任したバイデン米国大統領がパリ協定への復帰を表明しましたが、世界が団結してこの地球規模の課題に取り組んでいけるのかが鍵になると思われます。

また、「今後10年で発生する可能性が高いリスク」に「デジタルによる力の偏在」「デジタルにおける不平等」が入ってきていることが特徴的だと言えるでしょう。デジタル社会は、これまで社会活動に参加できなかった層をエンパワーするポジティブな面がある一方、デジタルツールにアクセスできる人とできない人の格差を広げる面もあります。また、これも世界的な問題となっていますが、グーグルやフェイスブックといったひと握りのデジタルテクノロジー企業が、国の枠組みを超えて強大な力を持ち、社会をコントロールできる状況に警鐘が鳴らされています。誰もが取り残されない形で、デジタルによる変革を社会を改善させる方向に導く努力が必要です。

そして最新レポートでは、若者の機会損失についてひとつのチャプターが費やされていることも注目に値します。デジタル化の進展で産業構造が大きく変化し、先が見通せない不透明な時代のなか、コロナ禍の雇用状況の悪化によって二重の混乱に巻き込まれた若者世代を「Pandemials =パンデミック世代」と呼び、若者に広がる社会に対する幻滅が大きなリスクになると指摘しています。若者が希望をもって歩みを進められる社会を築かなければ、社会の先行きが暗くなり、不満の鬱積によって不安定化することは明白です。


一方、コロナ禍の陰に隠れてしまってはいるものの、世界が動揺し、混乱する中で、紛争のリスクも見逃してはいけません。米国の対外政策にも影響を与えるシンクタンク「Council on Foreign Relations」が発表した「Conflicts to Watch in 2021(2021年に警戒するべき紛争)」を見てみましょう。下記は世界地図に主な紛争をプロットしたものです。

最も発生可能性と影響度が高い事案「Tier 1」として下記の9つが挙げられています。日本としては、朝鮮半島情勢もさることながら、覇権国になる野心を隠さない中国に最大の関心を払うべきでしょう。

台湾に対する圧力を強める中、米国を含めた有事の可能性も排除できません。中国は、日本企業が多くの生産拠点を構え、また市場としても巨大であり、経済的な結びつきが非常に強いことは事実です。しかし、恣意的な法律の運用で邦人が拘束される事案も多くあり、安全保障のみならず、民間企業の投資や市場選択、または従業員の安全確保という面からも悩ましい地域であると言うことができます。公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望 令和3年 (2021年) 1月」においても、「国外情勢」のパートで中国と北朝鮮に多くのページが割かれており、この2か国は日本を取り巻く国際情勢を考える上で最も重要になるでしょう。


2021年は、世界にとって新型コロナウイルスからの復興の1年になると思われます。新型感染症に対して国際社会や日本は適切に行動できたのか、検証し、次に備えることはもちろん大切ですが、コロナによって広がった格差や社会の分断は、また別のリスクとなって我々の前に現れるでしょう。世が移ろいゆく限り、リスクマネジメントにゴールはありません。一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブがまとめた「新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書」の結語を最後に紹介いたします。


「同じ危機は、二度と同じようには起きない。しかし、形を変えて、危機は必ずまたやってくる。学ぶことを学ぶ責任が、私たちにはある」


(根来 諭)
January 27, 2021


参考情報

The Global Risks Report 2021(世界経済フォーラム)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_The_Global_Risks_Report_2021.pdf

The Global Risks Report 2016(世界経済フォーラム)
http://www3.weforum.org/docs/GRR/WEF_GRR16.pdf

Conflicts to Watch in 2021(Council on Foreign Relations)
https://www.cfr.org/report/conflicts-watch-2021

内外情勢の回顧と展望 令和3年 (2021年) 1月(公安調査庁)
http://www.moj.go.jp/content/001335845.pdf

新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書 (アジア・パシフィック・イニシアティブ)
http://www.amazon.co.jp/dp/4799326805


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