2022年、世界が注目するリスクは何か

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2022.02.09

2022年1月11日、経済・政治・学問の世界のリーダーが連携して世界的な問題の改善に取り組むことを目的とした非営利団体「世界経済フォーラム」が、世界の政府や企業など650の加盟団体へのサーベイをもとに、グローバルなリスクについてまとめた「The Global Risks Report 2022」を発表しました。毎年、年次総会である「ダボス会議」の前に発表しており、今回が17版目の発表となります。

この報告書は、世界の有識者に対して行った調査をもとにして、様々なリスクを分析しています。意識調査では、今後3年間の世界の見通しについて意見が集められましたが、「グローバル社会の回復が加速する」とポジティブな回答をしたのはわずか10.7%。大多数の有識者が今後3年間のグローバル社会の回復は不安定で不均衡なものになると回答しています。

また、昨年に続き「今後10年間におけるグローバルなレベルで最も深刻なリスク」がランキング化されています。1年間でどのような変化があったのかを見るため、2021年の結果と比較してみます。

気候変動の脅威

昨年第１位であった「感染症」ですが、新型コロナウイルスの流行も3年目に入る中、6位に後退しています。一方、「気候変動へのアクション失敗」「異常気象」「生物多様性喪失」と、1位から3位を環境・気候問題が占めました。7位には「人間による環境へのダメージ」、8位には「天然資源危機」が入っており、10項目のうち半分を環境関連の項目が占めたことになります。

昨年、国連の「気候変動に関する政府間パネル（IPCC）」による第６次報告書が発表され、人間の活動が温暖化に与えた影響について「疑う余地がない」という声明が出されました。気候変動は、私たちが直面している大きな脅威であり、すぐにアクションを起こさなければならないとう意識が、グローバル社会で共有されたと言うことができます。

それを受けて、各国政府や企業は脱炭素に向けて大きく舵を切っています。この流れは、炭素集約型産業への依存を続ける国や企業が競争優位を急速に失うことになり、雇用がスムーズに移行されなければ、経済的不安や失業者数増につながります。また、石油など天然資源の価値が急激に変化することは、地政学的な緊張につながる可能性があります。

気候変動それ自体による自然災害の増加も脅威ですが、脱炭素の流れの中で社会や国際情勢が不安定化するという要素も忘れてはいけません。

社会の分断が招くリスク

また、社会の分断も我々に重くのしかかります。新型コロナウイルスのパンデミックからの回復には、どれだけワクチンを打てたかが大きく影響しますが、所得の高い国と貧困に苦しむ国の間で接種率の格差が大きく広がっています。不均衡な経済活動の回復によって国と国の間の格差が広がることは、国際的なパワーバランスの乱れにつながり、リスク要因となります。報告書によると、極度の貧困状態に生活する人がパンデミック以前と比べて、5,100万人増加すると予測しています。一方、CNNの報道によると、パンデミックの間に、世界の億万長者の総資産は約572兆円増加したという推計があります。

また、一国の中の格差拡大も問題となります。富めるものはますます富み、貧しいものはますます貧しくなる、いわゆる「K字型経済回復」をたどる中で、格差の広がりは社会としての一体感を失わせ、階層間・世代間のギャップが民主主義を浸食します。まさに現在米国で起きている現象ですが、日本にも同様の構図はあり、対岸の火事と傍観していられません。こうした事象が、ランキングの中に「④社会的結束の浸食」「⑤生計危機」が入ってきたことの背景と言えるでしょう。

いかに克服するか

気候危機、格差拡大、テクノロジーの急速な進化、デジタルによる分断、強権国家の台頭と民主主義社会の行き詰まり・・・国際情勢を見ても、米中対立やロシアの脅威をはじめ、各地では紛争が絶えません。第二次世界大戦から70余年が過ぎ、世界は軋んでいるように見えます。しかし70年前と異なるのは、インターネットや移動手段の発達で世界は分かちがたく結びついている点です。局地的な対立はあったとしても、国際的な協調を決してあきらめずに一つ一つの問題に対処していく姿勢が重要だと考えます。

(根来諭)
February 09, 2022