JR新宿駅で発生したパニックについての考察

  • BCP・危機管理

6月25日(日)の16時頃、JR東日本・新宿駅で大きなパニックが発生しました。報道によると、駅職員から警察に「刃物を振り回している人がいる」との110番通報があり、現場では人々が逃げ惑う事態となりました。

この他にも事件発生直後、SNSには大量の画像の投稿され、エスカレーターを人々が駆け上がる様子やホームで人が密集している様子、刃物を持っていたと人と思われる男性が警察に腕をつかまれてホーム階段を下りていく様子などが確認されました。この騒動の結果、JR東日本の山手線・中央線・総武線で運転が見合わされ、約1万4,000人の足に影響が出たとともに、避難途中に転倒するなどして3名の方が怪我をされました。

刃物を持っていた男性は料理人で、警察に対し「勤め先の飲食店から刃物を持ち帰って電車に乗った。包んでいた布が外れて包丁が見えてしまった」と言った話をしているとのことで、実際に危害を加えようとしたわけではなく、「刃物を持っている人がいる」といった言葉が伝わっていく中で内容が変わっていき、「刃物を振り回している」という虚偽の情報が加わってしまったのだと考えられます。

電車の中にはトロリーケースや傘、他にもサンダルや鞄なども残されており、発生当時人々が相当なパニックに陥っていたことが伺えます。

奇しくも本日6月26日には、いわゆる「京王線ジョーカー事件」の初公判が行われます。この事件は、2021年10月31日に走行中の京王線車内で発生した無差別刺傷事件で、乗客の男が刃物で他の乗客を切りつけた上に車内に放火したものです。18名の負傷者が出た一方、事件直後にジョーカーの仮装をした犯人が車内に座ってタバコを吸う姿がSNSに投稿され、人々の恐怖心を煽る事件となりました。

また、その少し前の2021年8月6日には小田急線でも似たような無差別刺傷事件が起きていましたし、2018年6月9日には東海道新幹線の車内で1名を殺害し2名に重傷を負わせる事件もありました。近年、こうした電車内での凶行が続いたことも、今回のパニックの遠因になっているのではないかと推察されます。


パニックが恐ろしいのは、それが群集事故、いわゆる将棋倒しに発展しうるところです。2022年10月に発生して159名が亡くなった韓国・梨泰院での雑踏事故や、2001年7月21日に発生して11名が亡くなった明石花火大会歩道橋事故などの例を挙げるまでもなく、多くの命が犠牲になる危険性があります。

群集事故が発生する要因は、統制されていない人の流れがあること、そして通路上に障害物や段差があったり、狭い出入口があるなどして人流が滞留する場所、いわゆるボトルネックが存在することなどが挙げられますが、駅のホームやそこに続く階段やエスカレーターというのはまさに群集事故発生の条件が整っていると言うことができます。そこにパニックを起こした人々(=統制されていない人々)が殺到することのリスクは非常に高く、今回怪我人3名で済んだことは僥倖であったと言えるかもしれません。

パニックに陥った群衆に統制を取り戻すことは簡単ではありません。適切かつ十分な情報を提供することで危機がないことを理解させ、安心させるしか方法はありません。駅の職員がSNSなどから何が起きているか正確に状況を把握したうえで、それを人々に周知することができれば、危険な群集事故につながるリスクをより下げることができると思われます。

最後に、お怪我をされた方々の一日でも早い回復をお祈りいたします。

(根来 諭)
June 26, 2023


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