東南アジアのSNS事情と注意点:「炎上」リスクを回避する

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成長著しい東南アジア市場。SNSを使った情報発信を行っている企業も多くあることと思います。本レポートでは、そうしたSNS活用時の注意点、特にいわゆる「炎上」によるレピュテーション・リスクについて解説いたします。


東南アジア社会の特徴は何といっても若年層が厚いことです。日本の平均年齢が2021年で48.4歳なのに対し、国立社会保障・人口問題研究所のデータ(※1)によるとベトナムの平均年齢は33.3歳(2019年)、インドネシアは32.1歳(2019年)、フィリピンは28.8歳(2019年)などとなっています。これら若者たちはいわゆる「デジタルネイティブ」、つまり生まれながらにインターネットがある事が当たり前の世代で、スマートフォンを使いこなし、SNSによる情報収集や発信を積極的に行う人々です。

そんな東南アジアのインターネットやSNS事情について、デジタル関連の様々な調査やデータ収集を行っているDataReportalのレポート(※2)から見てみましょう。

◆2021年4月までの1年間で増加したインターネットユーザーの数は全世界で3億3200万人
◆同じ期間に増加した全世界のSNSユーザー数はさらに多く5億2100万人(1秒間に16.5人増)
◆結果、2021年4月時点で全世界に43億3千万人のSNSユーザーがいる(世界総人口の55%)
◆東南アジアの若年層(16歳~24歳)に限ると99.6%が毎月必ずSNSを利用している

また、SNSを含むインターネットを利用する時間を国別にみてみると、東南アジアの国々は軒並み世界平均より長くなっており、フィリピンなどは世界平均の1.5倍以上、10時間56分となっています。仕事や勉強時間も含みますが、スマートフォンやパソコンに一日中かじりついていると言っても過言ではないと思います。


次に、使用しているSNSについて、日本と東南アジアの若年層を比較してみたものが下図です。Youtubeを除くと、日本ではLINEやツイッターが人気なのに対して、東南アジアではフェイスブックとインスタグラムが人気なのがわかります。

このようにデジタルネイティブ世代の多い東南アジアにおいて、広報やマーケティングを行ううえでSNSを避けては通れません。しかし、過去には適切な注意を払わなかったために、SNS上のコミュニケーションについて批判が殺到する、いわゆる「炎上」が起きてしまったケースが多数あります。ここからは具体的な炎上案件を見たうえで、注意すべき点を導き出したいと思います。


【ケース①】ベトナム

2019年6月、ベトナムでの起業をテーマとした個人のツイッターアカウントが、ハノイのカフェ(スターバックス)において、東南アジアで人気のある配送サービス「Grab」のドライバーが汚い格好で店内にいることが増えたので、店側は対応を考えた方がいいとする内容の投稿をツイッターに投稿。これが現地のテレビニュースで取り上げられたことによって、フェイスブックのアカウントを含めて炎上しました。

東南アジアの都市は、日本と比べると通年で高温多湿な場所が多く、フードデリバリーのドライバーが汗だくになってしまうことはよくあることです。それを外国人が指摘することに対して、「上から目線」を感じ、抵抗感を覚えてしまうのは理解できることです。

【ケース②】シンガポール

シンガポールでは8月9日が国としての独立記念日であり、祝賀行事やパレードなどで国中がお祭り騒ぎとなります。当然、企業としてはプロモーションのチャンス。2017年にはファーストフード寿司店の「MAKI-SAN」が「Maki-Kita」という名称の特別メニューを発表しました。この「Maki-Kita」という名前は、シンガポール国歌「進めシンガポール」のマレー語での冒頭の言葉Mari kita rakyat Singapura(シンガポール国民よ)をもじったものでしたが、実は「Maki-Kita」はマレー語では「自分たちを呪え」という意味でした。この特別メニューを「MAKI-SAN」がSNSを通じて発表した直後、当然ながら炎上し、謝罪(※3)に追い込まれました。

シンガポールには公用語は4つあり(マレー語、英語、中国語、タミル語)、宗教も仏教、イスラム教、キリスト教、ヒンズー教などあり、民族も多様です。そうした多様性に対する理解が欠けた事例と言う事ができるでしょう。

(出典:https://mothership.sg/2017/08/maki-san-deletes-maki-kita-instagram-post-after-realising-it-means-curse-us-in-malay/)

【ケース③】マレーシア

マレーシアではイスラム教が国教であり、髪の毛を覆い隠すスカーフである「ヒジャブ」を多くの女性が着用しています。もともとは地味な色が主流であったヒジャブですが、昨今ではファッション性を求める人が増えたため、様々な色や模様のヒジャブも登場しています。「ナエロファー・ヒジャブ」はそんなブランドのひとつですが、2018年2月に新商品のヒジャブの発表会をナイトクラブで行いました。これに対し、イスラム教がタブーとする飲酒をする場所であるナイトクラブで発表会を行ったことについて批判が殺到し、炎上につながりました。

これは人々が大切にしている宗教上の価値観を見誤ったために炎上してしまった例と言えます。

(出典:https://www.campaignasia.com/article/hijab-designer-apologises-after-launch-event-held-in-night-club/443073)
―――

いくつかの炎上事例を見てきましたが、メッセージの受け取り手にとってどのような内容が不快になるのかは、現地の文化や言語に精通していないと難しい部分があります。特に、民族的・価値観的に同一性の高い我々日本と比べ、東南アジアは民族や宗教が多様であり、また経済の発展に伴って社会的な階層もダイナミックに動いているために、様々な受け取り手を想定してチェックする必要があります。

メッセージや商品名・サービス名が、宗教を冒涜したり、人種差別する内容になっていないか。ジェスチャーが誤解を生んでしまう可能性はないか。ハラスメントにつながりはしないか。文化的に許容されるのか(例えばタイでは王室は大変敬われており、批判することはタブーです)。様々な角度でチェックする必要がありますが、ひとつ鉄則を挙げるとすると「政治・宗教・民族には一切触れない」ことが大切です。

さらに留意すべきは、「一度インターネットやSNSで拡散された情報をすべて消すことは難しい」ということです。スクリーンショットを撮られたり、記事化されることでそれらは永久にデジタル空間に残ってしまうため、「あとから修正できる」という考えは捨てなければなりません。そして、もし炎上が起きてしまった場合に、どのように謝罪などの対応を行うかを決めておくことで、迅速に火消しを行うことも、傷口を広げないためにとても重要になります。

出典:株式会社NNA 『NNAカンパサール』2021年12月1日掲載を一部加筆修正
https://www.nna.jp/nnakanpasar/backnumber/211201/topics_001/

記事はアジア経済情報を発信するNNAの許可を得て掲載しています。

(根来 諭)
April 06, 2022

参考情報

(※1) 人口統計資料集(2021) 国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2021.asp?fname=T02-14.htm

(※2) THE SOCIAL MEDIA HABITS OF YOUNG PEOPLE IN SOUTH-EAST ASIA (DataReportal)
https://datareportal.com/reports/digital-youth-in-south-east-asia-2021

(※3) 「MAKI-SAN」のフェイスブック上での謝罪
https://www.facebook.com/rollwithmakisan/posts/we-do-acknowledge-the-diversity-of-culture-of-our-consumers-and-the-people-livin/1506669962709653/


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