レポート

スポンジシティ構想:洪水を防ぎ、雨水を資源に

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今年も出水期に入り、各地で大雨がもたらされています。沖縄では6月としては記録的な量の雨が降り、昨日も西日本を中心に広い範囲で天気が荒れました。地球温暖化によって大気が暖かくなることで空気中に含まれる水蒸気の量が大きくなり、今後大雨の頻度が長期的に増加していくことが予想されています。

こうした地球環境の変化により、昔の気候をベースに作られた都市において壊滅的な洪水が頻発しています。昨年の米国ニューヨークで発生した洪水が象徴的ですが、アジアで、中東で、中南米で、アフリカで、まさに世界中において都市圏における水害が発生しているのが現状です。中でも極端な例が、街が完全に水没して都市機能停止を余儀なくされた、今年の4月にアラブ首長国連邦・ドバイで発生した洪水です。

筆者もドバイに居住した経験がありますが、雨が降ることが想定されて都市が作られておらず、排水という概念が基本的にありません(下の写真からもわかるように、日本では当たり前にある排水溝が道路に備えられていません)。雨が降るのは年に1度か2度、それもまとまった量ではなかったためにそれでも問題がなかったわけです。しかし地球温暖化によって前提が変化してしまいました。

変わる都市計画

数百年もの間、都市計画における対水害の基本的なコンセプトは、側溝や下水道などのインフラを活用して雨水を速やかに都市外の川や湖、海に流し出すことでした。しかし、増加する洪水を防ぐとともに、急増する都市人口を養うために水資源を有効活用する必要性が高まっていることから、水を払いのけるのではなく、スポンジのように吸収して活用する都市計画コンセプトが現れました。それが「スポンジシティ」です。

(出典:https://plutusias.com/sponge-cities/)

スポンジシティでは、水を都市から排出してしまうのではなく、保水したり、循環させたりすることで最大限に活用します。緑地や人工的な湿地帯を計画的に配置したり、透水性のコンクリート路面を採用したり、雨水が集まる鉢状の巨大なくぼみを作ったりすることで帯水層に水が浸み込むようにするのです。このような方法で帯水層に水を補給することで、ジャカルタ・バンコク・メキシコシティなど多くの都市で問題となっている、地下水の過剰汲み上げによる地盤沈下を防ぐことにもつながります。

また、気候変動がもたらす、大雨とは反対の干ばつという問題に対しても有効な対策となりえます。例えば日本では年間約259億㎥の都市用水が使用されていますがその77%は河川から取られています。都市の保水機能が高まり、河川への依存度を低くできれば、都市としてのレジリエンスは向上すると言えるのではないでしょうか。水資源が潤沢な日本ではあまり問題視されませんが、水不足は世界的な課題であり、国際河川を擁する国々では、取水を巡る地政学的な緊張も高まっています(チグリス・ユーフラテス川を巡るトルコ・シリア・イラクの争いや、メコン川を巡る中国とインドシナ半島諸国の争いなど)。

そして緑地化を進めることで、人々のメンタルヘルスに良い影響を与えることや、ヒートアイラインド現象の緩和、都市農業の推進による食糧安全保障の確保といった副産物を期待することもできます。

スポンジシティ先進国・中国

スポンジシティの構築に積極的に取り組んでいるのが中国です。例えば深圳では2016年からスポンジシティ(中国語で「海绵城市」)建設実験をスタートさせており、集中豪雨のある日でも道路が冠水したりそれによって渋滞が発生したりする頻度が大きく減少し、著しい成果を上げています。中国というと大河が流れ、水が豊かなイメージがありますが、実は全国657都市のうち約300都市が水不足に悩んでいると言われています。洪水と水不足に見舞われる水事情を踏まえて、スポンジシティがその解決策になることが期待されているのです。

スポンジシティ化の取り組みとして、「滲・滞・蓄・净・用・排」漢字六字で方針が表されています。滲(地中に浸み込ませる)、滞(一時的に滞水させる)・蓄(備蓄する)・净(雨水を土壌で浄化する)・用(雨水を利用する)・排(雨水を排水する)という意味です。これは、日本政府が掲げている「健全な水循環系の構築」というコンセプトにも通じるものです。



大雨による洪水や気温上昇による干ばつ・・・気候変動によって水を巡る環境は大きく変化してきています。そこに都市への人口集中という社会的な現象が相まって、水問題は21世紀の人類社会にとって大きな課題のひとつになっています。「循環」をキーワードとして、雨水を負債から資産にし、水と共存する都市を作るスポンジシティ構想は、都市をサステナブルでレジリエントな場所に変えていく可能性を秘めていると言えるでしょう。

(根来 諭)
June 26, 2024


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