スリランカで進む深刻な経済危機

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インド洋に浮かぶ島国・スリランカでは、政府に対する抗議デモが1か月以上に渡って続いており、政府が非常事態宣言を発出し、首相が辞職するなど混迷の度合いが深まっています。治安当局がデモ隊に発砲したという情報もあり、情勢は極めて不安定です。

(Credit:@NisalSuri)

背景にあるのは、深刻な経済危機です。その原因は、2019年に発生した連続テロの影響、新型コロナウイルスの感染拡大による観光業の不振、ロシアのウクライナ侵攻後の商品価格急騰など、複雑にからみあっています(詳細は後述)が、燃料不足による停電が発生したり、医薬品が不足するなど社会生活に多大な影響が出ているようです。外貨不足により石油代金の支払いを紅茶で支払うという、にわかには信じがたい報道もありました。

どのようにして、こうした危機に陥ったのか、歴史とともに振り返ってみたいと思います。

スリランカの歴史

紀元前に、アーリア系のシンハラ人がシンハラ王国を築いたところからスリランカの歴史は始まります。仏教が伝来し、以後この地は上座部仏教の中心地として栄えました。その後シンハラ王朝は、隣接する大国インドの王朝の侵略を度々受けたことによって遷都を繰り返し、最後にはジャフナ王国・キャンディ王国・コッテ王国の三か国に分裂します。

16世紀に航海技術が進歩して大航海時代に突入すると、1505年にポルトガルが商館を建設して植民地化したのを皮切りに、オランダやイギリスといった西欧列強の支配を次々と受けることになります。第二次世界大戦が終わり、1948年にイギリス連邦内の自治領「セイロン」として独立を果たすと、1972年には「スリランカ共和国」に改称、1978年に現在の国名「スリランカ民主社会主義共和国」となります。

その後は残念なことに、仏教徒で先住民の多数派シンハラ人勢力と、ヒンドゥー教徒である少数派タミル人勢力の内戦の時代に突入します。そもそもはイギリス植民地時代にタミル人を重用する分割統治政策がとられたことや、独立後にその反動としてシンハラ人優遇政策がとられたことなどが火種となって燻っていましたが、商業活動が活発になるにしたがってタミル人の移住が増加、シンハラ人との対立が激化していきます。1983年からは本格的な内戦状態となり、スリランカ政府軍とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)による戦闘は長期化、2009年にLTTEが敗北宣言を出したことでようやく終結の運びとなりました。

経済危機へ

内戦の終結後、治安が安定化するとともに、豊富な観光資源を持つ同国には経済ブームが到来しました。道路・鉄道・港湾といったインフラ整備や高級ホテルの建設ラッシュによってGDPは大きく成長することになります。

潮目が変わったのが2019年です。コロンボなどで高級ホテルやキリスト教会を標的にした大規模な連続爆破テロが発生し、259人が死亡します。この事件によって、GDPの1割以上を占めた観光業が深刻な不振に陥りました。

さらに2020年以降の新型コロナウイルス感染症流行がこれに追い打ちをかけます。観光客の激減と、中東などに多くいる出稼ぎ労働者からの送金が途絶えることで外貨収入が大幅に減少、生産・物流の停滞による物価高も重なり、経済は非常に苦しくなりました。さらに、ロシアのウクライナ侵攻による商品価格の急騰が重なり、物資不足からのインフレへと連鎖していきます。

一方で、中国マネーを呼び込んで権力者の地元に港湾や空港を整備するなど、縁故政治・汚職体質と過度の対中依存が、スリランカをいわゆる「債務のわな」に陥らせているという指摘もあります。



スリランカは、欧州や中東・アフリカと東アジアを結ぶ東西海運の要衝に位置し、インド洋で屈指の規模を誇るコロンボ港を擁します。また、南アジア周辺国に比べて、人材力も高いとされています。この経済危機を脱し、再び成長軌道に戻れるか、注目したいと思います。

(根来 諭)
May 18, 2022


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