G7に見るサプライチェーンの地殻変動
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主要7カ国首脳会議(G7広島サミット) が2023年5月21日に閉幕しました。今回のサミットにおいて脚光が当たったテーマは「経済安全保障」および「サプライチェーン」であったと言えるのではないでしょうか。20日には「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」が発出されています。その要旨を下記にまとめました。
重要物資の供給確保
G7政府や産業界にとって、サプライチェーンを強靭化することは喫緊の課題と言えます。食糧や生活必需品の供給を止めないことはもちろんのこと、ここで挙げられている重要鉱物・半導体・蓄電池と言った重要物資の供給を確保することは、単に経済的な意味だけではなく国の安全保障にかかわってくるからです。現代においては、特定の産業や経済を守る安全保障と、国家の主権を守る安全保障が密接に絡みついていることが大きな特徴で、「経済安全保障」という比較的新しい言葉がそれを表しています。日本政府も、菅義偉政権が「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を策定し、半導体を戦略物資と位置づけましたが、さらに岸田政権では経済安全保障を担当する閣僚ポストを新設し、重要物資のサプライチェーンの強化に集中投資する方針を明確に打ち出しています。今回の首脳声明はその流れに沿うものです。
特に半導体については、今後デジタル化が急速に進行する社会において産業的に重要であることはもちろんのこと、その最先端技術を手中に置き、チップの調達を確実にしておくことは軍事的にも非常に重要です。G7の裏側でも大きな動きがありました。5月18日には、米国の半導体大手マイクロン・テクノロジーが、次世代DRAM生産に向けて、日本政府による支援を前提として最大5000億円を投資すると発表しました。日本政府は既に世界最大手の半導体製造企業TSMCを熊本に誘致することに成功していますが、この動きもその一環と言えます。半導体の製造工程を自国及び友好国の中に囲い込んでおくことの戦略的意味はとてつもなく大きいと言えます。
一方で、中国政府は5月21日に、そのマイクロン・テクノロジーの製品について、サイバーセキュリティ上のリスクを理由として、重要インフラ事業者による同社からの調達を禁止すると発表しました。G7が見せた対中的包囲網的スタンスに対抗するものと見られています。
経済的威圧の抑止
また首脳声明には、中国を念頭に、政治的な影響力を行使して経済的な威圧を与える行為が広がっていることを懸念するとともに、新たな協議体(「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」)を設置し、G7以外のパートナーとの協力をさらに促進していくことが盛り込まれています。
「経済的な威圧」とはどのような行為を指すのでしょうか。具体的な事例を挙げると、2010年には尖閣諸島を巡る対立を受けて、中国が車の部品など製造業にとって大切なレアアースの対日輸出を停止したことや、2020年にオーストラリアが新型コロナウイルスの発生源を巡る独立調査を要求したことに反発して、中国がオーストラリア産品に対して貿易制裁を科したケースなどがあります。また、前述のマイクロン・テクノロジーの調達禁止もひとつの事例と言えます。
こうした威圧が、外交の武器として使用されるケースが問題となります。これに対し、新たな協議体を設置して抑止策を構ずる方針が示されています。その中で、G7以外とのパートナーシップが強調されていることも重要な点です。レアアースの禁輸では世界中で代替材料の開発が一気に進みましたし、台湾のパイナップルに制限がかけられた際は日本向け輸出を大幅に増やすことで急場をしのぐということがありました。一国対一国の関係では難しい局面でも、友好国がサポートすることで事態を打開できることは多いでしょう。
グローバルサウス
もうひとつ今回のG7におけるキーワードをあるとすると、「グローバルサウス」が挙げられます。
昨今強まっているのは、自由主義的価値観を共有する「民主主義陣営」と、中ロを中核とする「覇権主義陣営」の対立です。グローバルサウスとは、それ以外のいわゆる新興国・発展途上国を指し、政治体制も様々ながら、国際政治の趨勢を決める重要な役割を果たし、両陣営が経済支援によって取り込み合戦を行っているのが現状です。グローバルサウスではガバナンスのゆるい国も多く、統治する側にうるさい民主主義的な価値観と相いれない国も多いことが問題となりますが、今回はその中でも主要なプレーヤーであるインド、ブラジル、インドネシア、ベトナムといった国々も招待参加し、結束を固めることになった点は評価に値すると考えます。
サプライチェーンの地殻変動はすでに
サプライチェーンの地殻変動は既に起き始めており、製造業の国内回帰の流れや、脱・中国を中心とする多元化の流れが大きなトレンドとなっています。しかし見てきたように、現在の国際情勢は流動的な状況であるとともに、地政学リスク・地経学リスク戦後最大に高まっていると言うことができます。このまま「民主主義陣営」と「覇権主義陣営」の対立が先鋭化し、世界経済のブロック化が進むのであれば、企業はサプライチェーンを大きく組み替える必要に迫られるでしょう。
日々変わりゆく情勢を見すえながら、自社の事業では「どこで作り、どこに運び、どこで売るのか」という基本的な戦略を頻繁に見直していくことが求められます。また、今回のG7でのテーマでもありました気候変動も、自然災害の多発化・激甚化を招くことでサプライチェーンのリスクを一段と高めます。自社のサプライチェーンをどう再設計し、リスクをいかにマネジメントするかは今後より一層重要な課題となるはずです。
(根来 諭)
May 24, 2023
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