レポート

遅い時期に発生した大型台風、ハリケーン・・・気候危機の現れか？

2020.11.25

気候変動・気候危機
防災
自然災害

2020年10月末から11月中旬にかけて、大きな台風19号・22号、ハリケーンEta・Iotaが立て続けに発生し、暴風雨がフィリピンやニカラグア、ホンジュラスなどの中米諸国に大きな被害をもたらしました（気象学的に台風とハリケーンは同じ現象ですが、太平洋西部で発生するものを台風、太平洋東部や大西洋で発生するものをハリケーンと慣例的に呼んでいます）。これらは、昨今警鐘が鳴らされている地球温暖化を原因とした気候危機によるものなのでしょうか？

連続して発生した大型の台風、ハリケーン

「猛烈な」台風に発達した台風19号（アジア名Goni/コーニー）は、今年発生した台風の中で最も低い中心気圧を記録し（905hPa）、米国Joint Typhoon Warning Centerの分析によると上陸時の最大風速（1分間平均）は87m/sで、「世界最強の上陸台風」となりました。また、10月に6つ以上の台風が発生したのは7年ぶりとなります。そして、それに続いた「非常に強い」台風22号（アジア名Vamco/ヴァムコー）は、Goniで被害を受けた地域を含めてさらなる損害をもたらしました。下記右側の写真は、スペクティが報道機関に提供した動画からとったものになります。

一方、ハリケーンは、気象庁が台風を表現する尺度と異なり、「サフィール・シンプソン・スケール」と呼ばれる尺度で階級分けしています。今回発生し、主に中米に多大な被害をもたらしたハリケーンEtaとハリケーンIotaはそれぞれカテゴリー4とカテゴリー5でした。今年は大西洋で発生したトロピカル・ストーム（発達した熱帯低気圧）が記録的に多く、Iotaで数えて30個目。過去最多であった2005年の27個を更新し、平年値である12.1個の2.5倍となりました。

気候危機が原因か？

これら過去の記録を塗り替えた台風やハリケーンの発生は、地球温暖化を原因とする異常気象によるものと言えるのでしょうか？それとも正常な気候変動の範囲内の現象なのでしょうか？

台風やハリケーンは、気温・海水温が上昇し、エネルギー源である海水の蒸発量が増加して、大気中の水蒸気量が増えることで強大化します。下図はハリケーンEtaが通過した11月2日頃のカリブ海の温度データです。この高くなった海水温が、ハリケーンEtaが大きく発達した要因ではないかと考えられています。

しかし、それが「地球温暖化」によるものなのかを断定するのは難しそうです。気象現象はいわゆる”複雑系”で、予測可能な規則的変動と、ゆらぎによって引き起こされる予測不可能な変動が入り組んでいるものです。現時点で我々が持っているデータやモデルによって原因を断定することは難しく、個々の気象現象と地球温暖化の関連性について科学者たちの間で議論が続いている状況です。

一方、科学的な意味での正解はさておき、今回の台風やハリケーンなど「実感できる危機」が人間を行動に駆り立てることは間違いないと思われます。日本でも多くの方が感じている「災害の激甚化・多発化」は、初めて地球温暖化による気候危機を「わが身のこと」として実感する契機となったのではないでしょうか？

2020年11月19日、日本の衆議院本会議で、地球温暖化が世界各地で相次ぐ自然災害の要因となっており、危機的な状況にあるとして「気候非常事態宣言決議」が可決されました。これは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロに持って行く動きが加速されることを意味します。世界的にも、バイデン政権のスタートで米国も国際的枠組みに復帰することが期待されており、グローバルなアクションが強化されていくと思われます。民間企業もこれを意識した事業運営が強く求められることになるでしょう。

(根来諭)
November 25, 2020