【書籍紹介】私たちはいつまで危険な場所に住み続けるのか

  • 気候変動・気候危機
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  • 自然災害

本書は、日経新聞社で自然災害の取材を続けてきた建築・土木・住宅の専門記者による渾身のレポートです。

日本はそもそも、あらゆる自然災害が発生する災害大国。特に昨今は気候変動の影響によって「数十年に一度の」「想定外の」という言葉で形容されるような災害が頻繁に発生し、「災害の多発化・激甚化」が広く実感されているところです。特に水害による被害は非常に大きく、2004年や2019年には実に2兆円を超えています。

(出典:国土交通省・水害統計調査)

それがわかっていても、なぜ危険な場所に人が住み続けてしまうのか。例えば、死者・行方不明者271名という人的被害を出した平成30年7月豪雨。岡山県倉敷市では、小田川の決壊によって最大で5メートルの浸水被害が出ましたが、同市が被災世帯にアンケートを取ったところ、8割以上が継続して同じ地区への居住を希望したとのことです。

その理由は、土地への愛着や、職場・学校が近くにあるなど様々でしょう。また、水害発生直後では特に地価が下落して思うように売却ができないという事情もあるかもしれません。しかし水害の記憶が薄まるころには、価格の安さから新たに移住してくる人も出てくるため、同じような被害が繰り返されてしまう可能性が高まります。

そもそも平野の少ない日本列島においては、人口の約50%が洪水氾濫区域に居住しており、また、人口が減少しているにも関わらず、浸水想定区域内の人口や世帯数は年々増加しています。想定外の規模の災害が続くことを考えると、一部の危険な地域に住む人の問題ではなく、広く我々自身の問題ととらえるべきです。

(出典:日本災害情報学会 第20回研究発表大会予稿集, pp.24-25, 2018.10)

この状況に対し、行政をはじめとして無為無策であるわけではありません。

「第4章 危険な土地からの撤退」では、堤防やダムなどハードウェアで川自体に働きかける「治水」から、土地利用の工夫や保険などの仕組みを含めてその流域(山の尾根などに囲まれ、雨水がその河川に集まってくる地域全体)で水害に備える「流域治水」への転換が紹介されています。また、都市計画や条例を手段として、住民を危険な地域から安全な地域に誘導する取り組みも進められています。

「第5章 耐水都市への挑戦」では、水害を受け流せるような、耐水害住宅の開発の取り組みが紹介されています。また、建築物単体だけではなく、地域計画・都市計画など街づくりのレベルで防災に取り組むことの大切さが強調されています。

そして、「第6章 防災テックに商機」では、AIによる被害予測や人工衛星による被災の把握など、盛り上がりを見せている防災テクノロジーについて紹介。当社スペクティの他、災害予測やレジリエンス・プランニングに取り組む米国発の「ワン・コンサーン」、東京大学発のスタートアップで浸水予測シミュレーションを行う「アリスマー」が取り上げられています。



下記は、世界的な再保険会社であるSwiss Re社の研究部門、Swiss Re Instituteが発行した機関紙「sigma」に掲載された図を翻訳したものです。洪水リスクというものは「危険」「暴露」「脆弱性」が掛け合わさったものです。気候変動によって「危険」が大きくなっている今、洪水リスクを減らすには、第4章で紹介されたように危険な土地から撤退することでリスクへの「暴露」を減じることと、第5章の耐水都市の実現や第6章の防災防災テクノロジーによって「脆弱性」を減ずることが必要になってきます。

なぜ日本にはこんなに災害が多いのか。そう嘆きたくなりますが、一方で日本人は美しい景色や海の幸、山の幸をこの自然から享受しています。災害はその自然の一面であり、共存しなければいけない現象だと言えます。スペクティは、テクノロジーの力で、災害による被害を少しでも減ずることができるよう努力を続けていきます。

(SN)
Oct 19, 2022


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