防災・危機管理とシミュレーションの未来

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スペクティは5月17日、台風や集中豪雨などの水害が発生した際に、浸水深や浸水範囲をほぼリアルタイムで3Dマップ上に再現する技術を開発したことを発表し、多くのメディアに取り上げていただきました。

今回の開発では、令和2年7月豪雨時の熊本県球磨川周辺をモデルケースとして、SNSに投稿された画像や降水量のデータ、降雨地の地形データ、さらに過去の水害データを組み合わせて解析することで、浸水範囲と浸水深を瞬時に3Dマップ化しています。被害状況をビジュアルでわかりやすく把握することで、災害に対応する自治体が行動計画を立てたり、被災者をサポートする損害保険会社がリソースの配分を決定したりという場面で貢献できるのではないかと考えています。

防災・危機管理の分野では、刻一刻と状況が変化する中で、次に何が起こるのか、どういう状態になるのかをシミュレートすることが被害を最小限に抑えるために大変重要ですが、考慮すべき事象や条件が大変多く複雑なため、簡単なことではありません。本稿では、シミュレーションの今後の進化について解説いたします。


シミュレーションとは

シミュレーションとは、現実世界を模擬的にコンピュータ上に再現し、特定の条件下で何が起きるかを解析する手法を指します。発生しうる無数のシナリオを再現することで、人の勘や経験に頼らずに客観的・科学的な判断ができるようになります。身近な例としては、気象予測が挙げられるでしょう。天気予報とは、現実世界の気温、気圧、風、水蒸気、海面水温などを観測したうえで行うシミュレーションに他なりません。

また、例えば橋梁の構造解析などでは、工学・物理学の知見から作られた計算モデルを使い、様々な条件(車の通行による荷重や地震の揺れなど)を再現し、安全性の確保に活用されています。昨今では、コンピュータの計算処理能力の高度化によって、以前は時間をかけて行っていたシミュレーションが高速にできるようになり、条件設定を随時変更しながら、その場で影響を確認する「リアルタイムシミュレーション」ができるようになってきています。それにより、これまでは設計の最終確認のための「テストツール」として主に使われていたものが、設計段階から活用する「デザインツール」へと進化を遂げています。


AIによるシミュレーションのさらなる進化

シミュレーションにまつわる技術も日々進化しており、AI(人工知能)技術の一分野である機械学習を活用して、例えば店舗における売上を予測するサービスなどはすでに実際に利用されています。しかしこの場合、あくまで「過去のデータから将来を精度高く予測できる」ことがその効用です。データから計算モデルを作り、未来を予測することはできますが、トレンドが大きく変化したり、過去にない事象が発生した場合には予測精度は大きく落ちるものと思われます。

昨今は、特に気候危機が叫ばれ、これまでに例のなかったような災害が多発している中で、この種類のシミュレーションでは防災目的には不十分でしょう。そこで鍵を握るのは同じくAI技術である「画像認識」や、試行錯誤から戦略を獲得する「ディープラーニング」と呼ばれる技術です。これまで人がアルゴリズムを決めたり、制約条件を設定するなど、ある意味で職人芸的な形で専門家が解析作業を行っていたわけですが、与えられた大量のデータから特異点を見つける画像認識技術や、有効な計算モデルがない中でもデータから解を導くディープラーニングのような技術が発達することで、人が目的を与えてあげるだけで、有効なシミュレーション結果を得られるようになる可能性があります。

その他、IoTの進展によって、センサーがあらゆるものに埋め込まれることによって、気象データはより高精度に取れるようになりますし、車の位置・人の動き・道路の状況・河川の水位などの情報を広く大量にデータ化し、シミュレーションの素材として活用できるようになります。また、そうした大量のデータを処理し、計算するには従来のコンピューティング技術では足りません。まだ実用化は遠いものの、桁違いの計算能力を持つ量子コンピュータの実現も待たれるところです。

こうしたテクノロジーの進化によって、次世代のシミュレーションは実現可能となります。また、スマートシティを現実化するためにも高度なシミュレーション能力は欠かせません。スマートシティとは「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区(国土交通省による定義)」を指し、現在官民挙げて推進されている概念です。スペクティは、スマートシティにおける防災・危機管理の分野を担う存在になるべく、今後も技術開発を進めてまいります。




今回発表した浸水予測にとどまらず、スペクティは今後もチャレンジを続けていきます。防災の場面では、ハザードマップというスタティック(静的)なシミュレーションも普段の備えとして大切ですが、それに加え、刻一刻と変わっていく災害の状況や気象条件などをリアルタイムに反映したダイナミック(動的)なシミュレーションを行うことで、いま個々人がどういう行動をとるべきかを提言し、防災・減災に資するところをひとつの目標にして、今後も事業を発展させてまいります。

(根来 諭)
June 05, 2021


参考文献

ITロードマップ 2020年版(野村総合研究所IT基盤技術戦略室)
www.amazon.co.jp/dp/4492581154


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