レポート

防災技術の海外展開① 早期警報システムの普及(全5回)

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洪水、台風やハリケーン、熱波や干ばつなど、異常気象による災害は年々深刻化しており、パキスタンで国土の1/3が水没する大規模な洪水が発生したことを筆頭に、世界各地に大きな被害を及ぼしています。

◆参考「映像で見る、2022年夏・世界の自然災害」
https://spectee.co.jp/report/2022_summer_natural_disaster_global/

こうした災害による人的・物的損害を抑えるのに有効なのが、「早期警戒システム」です。早期警戒システムとは、災害が発生したこと、または災害の可能性が高まっていることを覚知し、警報や注意報といった形で住民にそれを伝達して避難を促し、被害を最小限に押さえ込むためのシステムです。日本はこうしたシステムの整備が世界で最も進んでいる国のひとつで、台風接近情報や大雨注意報、津波警報、地震速報や自治体が発出する避難情報など実に様々な早期警戒システムが身近な存在として定着していることはご存じの通りです。

一方、世界を見渡してみると、発展途上国では財政的・技術的制約からそのようなシステムがきちんと整備されていないことがほとんどです。2022年の国際防災の日に合わせて、国連防災機関(UNDRR)は世界気象機関(WMO)と合同で、「Global Status of Multi-hazard Early Warning Systems Target G」という報告書を発表しました。下記の地図はその報告書に掲載されているもので、早期警戒システムが整備されていると報告した国・報告していない国を示しています。カナダやフランスなどがグレーに色分けされていることが意外ですが、やはり発展途上国に報告していない国が目立ちます。一方、整備されていると報告している国の中でも、そのカバー範囲や精度にはかなりバラつきがあると考えられます。日本と同等のクオリティで実現している国はほとんどないのではないでしょうか。

(出典:Global Status of Multi-hazard Early Warning Systems (UNDRR)から一部翻訳)

さらに、早期警戒システムが有る・無いでどれだけの差があるかも報告されています。システムのカバー範囲が「限定的~中程度の国」は、「実質的・包括的にカバーされている国」と比べると人口10万人あたりの死者数が8倍になるということです。守れる命の数に大きな差が出ることがわかります。

(出典:Global Status of Multi-hazard Early Warning Systems (UNDRR))

この現状を受けて、国連のグテーレス事務総長は、2022年11月に開催された国連の気候変動に関する会議「COP27」において「Vulnerable communities in climate hotspots are being blindsided by cascading climate disasters without any means of prior alert.(気候変動に脆弱なコミュニティは事前の警報を受けることなく、激化する自然災害に襲われている)」と発言しました。

その上で、今後5年間で早期警戒システムを全世界に普及させるという計画の実現を呼びかけました。さらに、ハザードマップの作成など災害リスクの評価、気象観測や予報の高度化、避難勧告などリスク情報を伝達するネットワーク構築を進めるとしています。災害のリスクを把握したうえで、事象を観測・予測し、迅速に住民にリスク情報を伝達する。このプロセスが重要であることはは世界中どこであっても変わりません。

この計画を実現するにはおよそ31億ドルの資金が必要になると試算されていますが、WMO (世界気象機関) などは、システムの普及によって整備にかかる費用を大きく超える経済的な損失を回避できるとしています。


早期警戒システムを途上国まで行きわたらせ、気候変動による損害を軽減することはもうひとつ別の意味を持ちます。

これまで地球温暖化対策に関しては、先進国と発展途上国の対立が足かせとなってきました。二酸化炭素排出量の規制義務を議論するにも、途上国からすれば「先進国は環境を犠牲にして発展してきたのに、自分たちは貧しいままそのツケを払わされている」と受け止められるからです。

2022年11月のCOP27では、主な成果として、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国の「損失と損害」対応支援のための基金設置が決定されました。この取り組みとともに、先進国が技術的・経済的なサポートをすることで途上国が気候変動で受けるインパクトを抑えることは、「温室効果ガスの排出量が少ない途上国が気候変動による悪影響をより強く受ける」という構図を緩和することにつながります。温暖化対策における先進国・途上国の対立を和らげ、より協調性のある取り組みにつなげていくことが今後の地球環境を保っていくために非常に重要になります。

第2回に続く

(根来 諭)
January 11, 2023

参考情報

Global status of multi-hazard early warning systems: Target G (UNDRR)
https://www.undrr.org/publication/global-status-multi-hazard-early-warning-systems-target-g

国連気候変動枠組条約第27回締約国会議 (COP27) 結果概要 (外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1_001420.html


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