レポート

エッジAIとは?リアルタイム防災・危機管理の実現に向けて

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AI(人工知能)という言葉は、社会にすっかり定着した感があります。AIとは、単純な計算ではなく、人間の脳に近い働きをして創造的なアウトプットができるテクノロジーを指し、「予測」「分類」「実行」を行うことで価値を生み出します。例えば工場の生産ラインにおける機械の故障予測、広告コピーの自動生成、株式の自動売買、採用サービスの人材マッチングなど、様々な用途で社会への実装が進んでおり、我々も気づかないうちに、すでに日常生活の中でAIテクノロジーの恩恵を受けていると言えるでしょう。

AIに関する詳細は、過去コラムも合わせてご参照ください。

そもそもAI(人工知能)とは?その限界と可能性


エッジAIとは:最大のメリットは「リアルタイム性」

AIの社会実装が進むなかで注目されているのが、「エッジAI」です。「エッジ」は「末端」を意味し、AIのシステムにつながった末端にあるエッジデバイス(監視カメラや自動運転の自動車など)に搭載されたAIのことを「エッジAI」と呼びます。

下図にあるように、クラウドAIでは、クラウドサーバー側にすべてのデータを送信し、学習・推論を集中的に行います。一方、エッジAIでは、エッジデバイス側で学習・推論を行い、必要なデータだけをクラウドサーバーに送信します(学習はクラウド側、推論はエッジデバイス側が行うという役割分担のケースもあります)。

現在、Amazon、マイクロソフト、グーグルなどが提供するAIプラットフォームはそのほとんどがクラウドAIの形で提供されています。ネットワーク経由で大量のデータをデータセンターなどに送信し、データセンター内のコンピュータで高速処理をして学習・推論する、いわば「中央集権的な」モデルです。しかしこの場合、例えば自動運転車の周りで発生する現象をセンサーでとらえ、ネットワークを介してクラウドに送り、AIが処理をして、その結果を再び自動運転車側に返す・・・というようなオペレーションでは、タイムラグが発生しやすくなります。

5G(第5世代移動通信システム)が普及することによって、タイムラグは従来よりも大幅に抑えられますが、それでも数ミリ秒単位の遅れはあり、限りなくリアルタイムに近い高速応答性が必要とされるシーンでは、致命的な結果をうむ可能性も否定できません。自動運転において微小なタイムラグが大きな問題となりえることは想像に難くないでしょう。車載カメラやセンサーによって周囲の車や歩行者の動きを捉え、何か想定外のことが起きた際に瞬時の判断で危険を回避するには、リアルタイムに近い反応速度が求められます。同様のことは、例えばドローンの自動操縦や、精密機器を製造する産業用ロボットの制御、医療での遠隔手術などのケースについても言うことができます。

エッジAIの場合、端末側で処理をして結果を返すことでタイムラグを限りなく小さくすることができます。この「リアルタイム性」がエッジAIの最大の特徴と言えるでしょう。


エッジAIが注目される背景と展望

エッジAI関連の商品開発も様々な会社によって進められています。例えば、ソニーは昨年、AI機能を搭載したイメージセンサーを発表しています。

世界初、AI処理機能を搭載したインテリジェントビジョンセンサー 2タイプを商品化
高速なエッジAI処理を可能にし、クラウドと協調した最適なシステムの構築に貢献
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/News/Press/202005/20-037/

ではなぜ今、エッジAIに注目が集まっているのでしょうか?それは、IoT(モノのインターネット)が進展し、あらゆる機器がインターネットにつながるようになり、膨大なデータをリアルタイムで処理する必要性が高まってきているからです。IDCの調査によれば、2025年には、世の中に流通するデータのうち、リアルタイムデータは全データのうち約30%、量にして約47ゼタバイト(1ゼタバイトは10億テラバイト)にのぼると推測されています。その中で、「リアルタイム処理が可能」「クラウドなど上位システムの負荷軽減」「大量のデータ送信でネットワークを圧迫しない」という特性は大きなメリットとなります。

(出典:IDC 「Data Age 2025」)

もうひとつ、エッジAIの大きなメリットとして「プライバシーの保護」が挙げられます。例えば、監視カメラを使った駅での転落防止アラート発信、幹線道路での交通量調査、小売店での万引き防止などでAIを活用するシーンを想像してみてください。監視カメラにAIを搭載して画像解析・映像解析を行い、必要な情報(転落しそうな状態であることや、交通量の情報)だけを取り出すことができれば、カメラに写っている特定個人の顔の映像などプライバシーに関わる情報をクラウド側にデータを送ることなく目的を達成することができます。



防災・危機管理の世界も、IoTの時代に大きく進化していくでしょう。今後、現実世界で起きる事象のデータ化が急速に進みます。自動運転車や、それを走らせるために設置されたスマートポール・スマート信号からは膨大な量の画像や交通に関する情報が取得できるでしょう。監視カメラやセンサー機器を使い、河川の様子、路面の状態、堤防からの越波状況なども把握することができるようになります。また、民間企業による打ち上げが続く人工衛星から得られるデータや、コロナで注目を浴びた人流データなども現実世界を写し取ったデータだと言えます。

こうして得られる膨大な量のデータをAIが解析し、起きている危機をリアルタイムで覚知したり、さらに今後発生するであろう災害を事前に予測し、人々を守るためにアラートを発信したり、防災・危機管理に関する意思決定に活用する・・・このようなビジョンを実現するのに、エッジAIは重要な役割を果たすものと思われます。

(根来 諭)
August 25, 2021


参考情報

Data Age 2025 (IDC)
https://www.import.io/wp-content/uploads/2017/04/Seagate-WP-DataAge2025-March-2017.pdf


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