「不確実性」とは、そしていかに向き合うか

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我々は何が起こるかわからない、「不確実性」に囲まれて日々を過ごしています。長期化するロシア・ウクライナ戦争や中東での紛争激化、米中対立とトランプ関税の影響による国際経済秩序の揺らぎ、生成AIの急速な進展による産業構造の変化、そして気候変動による自然災害の頻発などにより、特に現在は不確実で不安定な時代であるという意識が高まっているのではないでしょうか。

ひとつ明確なことは、未来を正確に予測することは不可能であるということです。世の中には多くの予測が出回り、専門家の意見にあふれていますが、予測はあくまで予測。当たる時もあれば当たらない時もあるというのが現実です。

しかし、未来が不確実だからと言って、我々は足をすくませて止まっているわけにはいきません。本レポートでは、不確実性とは何か、そしてそれにどう向き合うべきかについて述べたいと思います

まず、不確実性というものをどう認識したらよいでしょうか。書籍「不確実性超入門(田渕直也)」では、不確実性を「ランダム性に起因する不確実性」と⁠「フィードバックが生み出すカオス的不確実性」の2つに分類しています。

ランダム性に起因する不確実性

ランダム性とは、まったくの偶然によって事象の結果が決まるという性質のことを指します。

サイコロを振る、ということを例として考えてみましょう。どのサイコロの目が出るかを正確に予測することは不可能ですが、その確率が1/6であることはわかっています。実際に振ってみて、ある目が出たからと言って、何か明確な原因と結果(因果関係)があるわけではありません(ここではサイコロの重心のズレや、振る人の心理状況などは考慮から外します)。再度振る時には、前回に出た目は関係なく、1/6の確率でどれかの目が出るわけです。これをランダム性と言います。

世の中はランダム性に満ちていますが、この「予測はできないが確率的に表現できる」性質に起因する不確実性には、どのように対処すればいいでしょうか。サイコロの目にせよ、ギャンブルでのルーレットの数字にせよ、為替の変動にせよ、ランダムな事象はその結果を沢山集めてグラフ化すると、「正規分布」と呼ばれる釣り鐘型の形状を成します。例えば、「身長」を例にとってみましょう。

(出典:学校保健統計調査 / 令和6年度 全国表)

上図は、2024年度の17歳男子の身長分布です。綺麗な釣り鐘型になっているのがわかります。身長というものは、遺伝子のランダムな変異の蓄積によって違いが出る、つまりランダム性を持つ事象であり、その分布は平均値の付近に集積するような「正規分布」となるのです。

これにより、どこに分布の中心があり(平均)、どれくらい広がっているのか(標準偏差)ということがわかります。言い換えると、正規分布になる事象は、平均と標準偏差というふたつのパラメータを持つひとつの数式で表現することができる事象であり、よってもってどれくらいの確率でその事象が発生するかを計算することができるわけです。

このように発生確率を計算できる事象については、すでに対処法は確立されていると言っていいでしょう。株式などの投資の世界では「Value at Risk」という考え方があり、これは過去のデータから統計的に確率を計算して予想する最大損失額のことです。その最大値に応じて余裕資金を持っておくことで、不確実性の発現によって再起不能になるような損失を抱えることを防ぐことができます。

また、保険というものはまさにこの性質を利用して、不確実性によるリスクを皆で分担し合う仕組みと言えます。個人が交通事故に合うかどうかは予測が不可能です。しかし、過去の交通事故のデータを積み重ねていけば、全体として交通事故にあう確率を計算することは可能です。その確率に応じて保険料を集め、事故に合った方に保険金を支払い、残りを利益とするビジネスが保険業です。

フィードバックが生み出すカオス的不確実性

一方で、このランダム性で説明ができない、すなわち正規分布で捉えることのできない極端な事象があります。別の言い方をすれば、過去のデータをいくら積み上げて、数式を作って確率を計算しても、発生が予測できない極端な事象のことです。例えば大量の白鳥を観察し、全てが白かったとしても、黒い白鳥がいないとは限りません(実際に1697年にオーストラリアで発見されました)。「ブラック・スワン」という言葉は、ナシーム・ニコラス・タレブが提唱した、「極端な事象」を指す概念です。

こうしたブラック・スワン的事象は、ある結果が原因となって次の結果を再生産し、それがやがて平均から離れた極端な結果へ行きついていう自己循環的プロセス、すなわち「フィードバック」によって引き起こされていると考えられています。例えば、株が暴落する際に「売りが売りを呼ぶ」ケースはこれに当てはまるでしょう。リーマンショックにおいては、きっかけはサブプライムローン・バブルの崩壊でしたが、それが証券化商品を多く保有する金融機関の経営に影響を与え、金融市場の麻痺と株価の連鎖的な下落につながり、民間企業の資金繰りが苦しくなり・・・という形で増幅されていた結果、未曽有の金融危機に発展していきました。

こうした、「フィードバック」の連鎖から生まれる予測不可能なふるまいは「カオス」と呼ばれます。このカオスの説明の際によく使われるのが「バタフライ・エフェクト」というものです。バタフライ・エフェクトとは、初期条件のわずかな差が時間とともに拡大して、結果に大きな違いをもたらす効果を指し、よく「アマゾンを舞う1匹の蝶の羽ばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせる」というような表現が使われます。日本のことわざ「風が吹けば桶屋がもうかる」も似た概念かもしれません。

この世界は複雑であり、その中の小さな要素同士の組み合わせでも、未来に大きな影響を与える以上、正確に未来を予測するのは不可能である、と言う事ができるでしょう。

不確実性とどう向き合うか

未来を予測することは困難で、「ランダム性に起因する不確実性」は確率を求めることで対処することが可能ですが、それに加えて「カオス的不確実性」があるということがわかりました。

しかし、不確実性から生まれるリスクを恐れて何もしないので、「リスクをとらないリスク」が顕在化します。リスクを恐れて変わらない企業と、リスクを認識・管理した上で変わっていく企業では、後者が生き残る可能性が高くなるのは、社会環境が変わり続けている以上当然と言えます。

また、生物は「変異」と「適応」を繰り返して進化してきました。色々な小さな変異が発生し、その中から環境に適応したものが生き残っていくというメカニズムです。企業においても同様のアプローチが可能ではないでしょうか。未来を予測するのは難しい。であれば、小さなチャレンジや新製品・新サービスを投入し、適応できそうなものをブラッシュアップさせていくという手法です。コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していく「リーンスタートアップ」と呼ばれるマネジメント手法に通ずるものがあります。

一方で、研究者・コンサルタントであるヒュー・コートニー、ジェーン・カークランド、パトリック・ビゲリーらにより提唱された不確実性の4タイプがあります。

(出典:Harvard Business Review「不確実性時代の戦略思考」より筆者作成)

レベル4の不確実性については打つ手がありませんが、確率の計算でレベル3に持ってくることができればリスクの低減に役立ちます。さらにそれをレベル2のいくつかのケースを想定するところまで落とし込むことができれば、対策をより効率的に打つことが可能になります。

そうしたことを実現させるにはテクノロジーの助けが必要です。未来を予測するテクノロジー、特に短期予測については発展が目覚ましく、例えば2日後の川の水位を予測するのは難しいですが、2時間後の水位を予測することは比較的容易です。短期予測の精度向上で、レベル4の事象をレベル3に、そしてレベル2にとこれまでよりも早い段階で手元に手繰り寄せるようなアプローチ、これが不確実性を減じていくのに今後有効ではないでしょうか。

(SN)
July 8, 2026


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