レポート

OSINT(オシント)が変えていく報道や防災の世界

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OSINTとは

1990年8月2日、イラクによるクウェート侵攻を発端として勃発した湾岸戦争は、テレビによって生中継された史上初めての戦争でした。暗い夜空にミサイルが発射される映像を記憶している方も多いでしょう。そして時代も下り、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。そして今月10月7日より続いているパレスチナを舞台とした争乱。SNSを通じてまさに銃弾が飛び交う現場の動画や生々しい被害の様子を手のひらのスマートフォンで簡単に知ることができるようになっています。それら画像は、両国の兵士がSNSに投稿したものだけではなく、そこに住む一般市民が撮影したものも含まれており、これほど現地の状況が広く可視化されたことはなかったと言えます。そんななか「OSINT(オシント)」に対する注目がいま再び高まっています。

OSINTとはOpen Source Intelligenceの略で、インターネット上などに公開されているなど、一般の人間が簡単に入手することができる情報をもとに、調査・分析する手法を指します。そもそもは国家による諜報活動における一手法と位置づけられていましたが、その本質は「事象についての断片的なデータや情報を集めて分析し、意味のある情報(インテリジェンス)を得ること」にあります。

インテリジェンスは、上記のように分類することができます。ただこれは網羅的なものではなく、もっと細かく分類していくことも可能ですし、逆に例えば公開の衛星画像であればOSINTと言うことも、IMINTと言うこともできるでしょう。007のようなスパイ映画で表現されるようなHUMINTなどはとても派手ですが、実は現在では公開情報によってかなりの部分がまかなわれており、諜報活動に力を入れるイスラエルのある機関では、レポートの中の情報の9割はOSINTから得られているとも言われています。

OSINTは、2014年に発生したマレーシア航空撃墜事件の際に、ベリングキャットという民間の調査集団が、ロシアからウクライナ領内に持ち込まれたミサイルが使用されたことを公開情報の分析によって指摘したことからにわかに注目を集めました。その後は世界中の報道機関がOSINTの手法を取り入れた報道に取り組んでいます。

暴かれる現場の真実

ロシアのウクライナ侵攻では、いわゆる「ブチャ虐殺」の検証においてOSINTが威力を発揮しました。ウクライナの首都キーウの近郊ブチャ市において、ロシア軍が撤退したあとに撮影された、民間人の遺体が転がる凄惨な動画が瞬く間にSNSを駆け巡りました。この街は、侵攻開始直後にキーウを攻め落とそうとするロシア軍によって1か月近くにわたって支配され、その後ウクライナの反撃によって奪還された場所になります。多くの民間人が虐殺された痕跡が多数残ることから国際社会ではロシアを非難する声が急速に広がる中、ロシアは「地元住民が暴力行為にあったことは一度もない」と虐殺行為を完全に否定しました。これに対し、米国のニューヨークタイムズ紙は、拡散された動画に映りこんだ建物や標識などの特徴から横たわる遺体の位置を正確に突き止めたうえで、米国の宇宙技術企業であるマクサー・テクノロジーズが撮影した衛星画像と比べ合わせ、複数の遺体がロシア軍の支配下にあった間に長期間放置され続けていたという事実を暴くことに成功しました。

また、英国のNGO「情報レジリエンスセンター」はロシアの主張について詳細な分析を行い、報告書を公表しました。ロシアはニューヨークタイムズ紙の指摘に対し、衛星画像は別の日付に撮られたものだという反論をしましたが、この報告書では太陽の方位角と高度を計算できる「Suncalc」という無料のオンラインツールを使い、衛星画像に映る影の向きから撮影日時に矛盾がないことを証明しました。

発展していくOSINT

どうしてOSINTがこれほどまでに注目されるようになったのでしょうか。その背景には当然インターネットの存在があります。個人はインターネットとパソコンを手に入れたことで、いながらにして世界中の公開情報にアクセスすることができるようになりました。さらにスマートフォンとSNSが普及することによって、さらに膨大な情報がインターネット空間に投稿されるようになります。

また、既に紹介した「Suncalc」のようにOSINTの目的に使える様々なツールや、Wikipediaのような方式で不特定多数によって作成されたデータベースなどが次々と登場し、この流れを後押ししています。例えば「Peakvisor」という登山者向けのツールは、山頂の形状からどこにあるどの山なのかを知ることができ、例えば標識のような手掛かりのないところで発生した事象の場所を調べるのに活用することができます。また、「CAMOPEDIA」は、世界の主要な軍隊や軍事組織の迷彩服のパターンを網羅したデータベースで、SNSに投稿された動画に映った軍服からその人間がどの組織に所属するかを割り出すことが可能です。

報道の世界では、OSINTによって大きな変化が起きています。紹介したニューヨークタイムズ紙によるOSINT調査報道のようなものは今後確実に増えていくと思われます。また、この変化におけるもうひとつのパワフルな側面は、公開情報がどんどん利用可能になってきているだけではなく、「集合知」がそれを分析している点です。いくら情報収集が得意で博識な人間であっても一人で調べられること、分析できることには限りがあります。しかし昨今では、事象に対してSNSなどで不特定多数から多角的な分析が加えられることが多く見られます。X(旧Twitter)ではいわゆる「OSINTアカ」と呼ばれるようなアカウントが、ウクライナ侵攻について専門家顔負けの(専門家が匿名で投稿しているのかもしれません)分析をしていることも珍しくありません。また、既に紹介した英国のNGO「情報レジリエンスセンター」が中心となって作製する「Eyes on Russia Map」では、ロシア軍の動きや被害に関するSNS上の情報についてその撮影場所と日時をネット上のコミュニティとともに検証して地図にプロットすることで、集合知をまとめ上げています(下図)。

(出典:「Eyes on Russia Map」The Centre for Information Resilience)

防災の現場では

防災の世界においても「公開情報」や「集合知」をキーワードとした同じような動きがあります。2021年7月に、静岡県熱海市で発生した土石流災害。沢山の命が失われる大惨事となってしまいましたが、その発生直後に複数の方が現場を「フォトグラメトリー」と呼ばれる技術で3D化してSNSで公開し、現地の状況把握をサポートしたり、産官学の有志がオンライン上で集まり、静岡県が公開している点群データを使うことで情報分析を行い、二次被害の抑制を取り組むなど、まさに垣根を超えて知を結集させた取り組みが威力を発揮しました。

災害時に一義的に対応するのは地方自治体ですが、リソースが圧倒的に不足することが普通です。その際に組織の壁を越え、人々が知識とスキルを持ち寄って問題の解決にあたるのは素晴らしいことであり、また日本人の気風にも合う動きなのではないかと思われます。自治体もできるだけ情報をオープンにしておくことで、いざと言う時に民間の力をフルに活用できることにつながるのではないでしょうか。先進的な自治体が既に取り組んでいる「オープンデータ化」は、OSINTの時代において必要不可欠な流れではないかと考えます。例えば東京都では「東京都オープンデータカタログサイト」を立ち上げ、内容を充実させ続けています。

スペクティではオープン情報であるSNS情報だけではなく、その他のクローズドな/オープンな情報を組み合わせて解析し、防災や危機管理に活用するソリューションを展開しています。OSINT時代の到来は我々にとっても追い風であり、より高い価値を提供できるように努力を重ねていきます。


参考情報

SNS・ドローン・ 3Dマップ、熱海土石流を多角的に捉えるテクノロジー
https://spectee.co.jp/report/landslide_atami_democracy_of_tech/


(根来 諭)
November 01, 2023


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